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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「愛されたい」 第三章 家出と再会

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「考えているほど楽な事じゃないわよ、働くって言う事は。仕事によっては残業があったり、休日も働かなくてはいけなかったりするのよ。子供たちの学校もあるのに、せめて高志が高校卒業するまで我慢できないの?」
「それも考えたけど、私が働いても高志のことやれない訳じゃないから、大丈夫って思うの。とにかく、そうさせてお母さん」
「伸一さんは本当は優しい人だと思うから、よく話し合ってごらん。別れるなんてどちらにとってもいい事なんかないよ。そのこと十分考えて行動してね」

母の多恵子が言うことはもっともな意見だと智子は思った。別れて暮らすことは大変なことだと薄々感じられる。パートの収入ですべてを賄って行くことは多分不可能であろう。冷静になったら、家出なんか出来ない。何とか夫を説得して、今の家で仕事を始められるようにしたいと考え始めた。

初詣が終わって、智子と有里、高志の3人は伸一の待つ家に帰っていった。車が玄関に停めてあったので、夫は居ると思った。チャイムを鳴らす。出てこない。もう一度ならす。出てこない。持っていた鍵で開けて中に入った。
「お父さんどうしたのかしら?車があるのに、まだ帰ってきてないなんて」有里は不審に思った。台所のテーブルの上にメモ書きが残されていた。伸一の字で書かれていた。

「有里・高志へ」そう初めに書かれて文章が続いていた。
「お父さんはしばらく実家から会社に通うので、お母さんと一緒に暮らしていなさい。何かあったら楠本のおじいちゃんの家に電話しなさい」
智子は、正直嬉しかった。自分じゃなく夫が出て行ってくれたからだ。

「お母さんこれってどういう事なの?お父さんが出て行った、って言うことなの?」
「よく解らないけど、ここに私が帰ってくることが嫌だったのかも知れないわね」
「お父さんもお母さんとは暮らしたくないって言うことなのかな」
「そうね、多分そう思っているんじゃないの。帰ってこないって書いてあるから」
「じゃあ、このまま続いていったら、離婚になるって言うことなの?そうしたいの、お母さんは?」
「有里や高志が将来独立して家を出て行ったり、結婚したりしたらその時には離婚を考えるかも知れないけど、今はまだそこまでは強く思っていないよ」
「だったら、私が電話をしてお父さんに帰ってきてもらってもいい?」
「いいわよ、でも有里の言う事を聞いてくれるかしら」
「電話してみる」

電話帳を手にして有里は楠本の実家に掛けた。
「もしもし、有里です。おばあちゃん?おめでとうございます。はい、元気です。あのうお父さん居ますか?」
「有里ちゃんかい、伸一は今居ないよ。おじいちゃんと近所の銭湯に行ってるよ。初風呂に入るって言ってね。何か用事なの?」
「聞いてないの?おばあちゃんは」
「何をだい」
「お父さんね、私と高志に書き置き残して帰って来ないって言ってるんだよ」
「そんなこと話して無かったよ。何かの間違いじゃないの?智子さんに代わってくれない?」
「うん、ちょっと待って」有里は受話器を居間に居た智子に手渡した。

「お義母さん、おめでとうございます。はい、元気にしております。ええ、そうなんですよ。今私の実家から帰ってきたら台所のテーブルの上に書置きがありまして・・・はい、そうですか、ではお風呂から戻ってきましたら電話してくれるように言って下さい」
「解ったよ。悪いねえ。智子さんはいつ来るんだい?」
「はい、そのことも伸一さんと話しますので」

電話を切った。時計を見た。午後6時を少し回っている。夕飯の支度が出来ないから、三人で近くのファミリーレストランに行こうと準備を始めた。

伸一から電話が掛かってきたのは7時少し前だった。
「母さんに置き手紙の事話したのか?」いきなりそう言った。
「有里が電話をしてそう言ったのよ。お義母さんに話してなかったのね」
「これから話そうと思っていたんだ。風呂から帰ってくるなり、いきなりどうしたの?って聞かれてビックリしたよ」
「まあいいけど、どういうつもりでそうなさるの?」
「どういうつもりって・・・お前はおれの顔が見たくないだろうから有里や高志のことを考えて、こっちに居ようと思ったんだ。不都合でもあるのか?」
「何故お話をしてからそうなされなかったの?」
「お前だって勝手に出て行ったじゃないか!」
「私はあなたに叩かれて、出て行きます!って言ったじゃない!何も言わずに実家に帰ったわけじゃないわよ」
「同じようなもんだよ。おれの親にはやんわりと話すからお前からいろんな事言うなよ、解ったな。それから、こっちには有里と高志だけ来させろ。母さんがお年玉あげたいって言ってるから。そうしてくれ・・・」
「ねえ、じゃあ電話でいうから聞いて。私働きに出るから。仕事見つかったら夕方の食事の時間までで勤めたいの。あなたが帰ってこられてもそうするからご承知なさって下さいね。それと、顔が見たくないなんて今は思ってませんよ。お互いに自由に暮らせれば、家のことはやりますから有里や高志のためにも帰ってきて下さいね」
「ふ~ん、仕事に出たいのか。おれの稼ぎで不自由しているのか?それとも、何か他に理由があるのか?」
「自分のしたいことがあるから、働いてあなたのお金じゃなく使いたいの。特別に理由なんてそれぐらいよ」
「浮気か?」
「何仰ってるの!失礼な・・・そんな女じゃありません!電話切りますから」そう言い放って電話を切った。

失礼な人・・・これほどまでに言われて我慢している自分の方が情けなくなる。早く仕事を見つけて働きに出たいと強く思った。

「有里、高志、お父さんのおばあちゃんがお年玉くれるって。明日にでも二人で行ってらっしゃいね」
「お母さんは行かないの?」
「お父さんが、来なくていいって言ったから行かないよ。二人で行ってきて」
「もう、ダメなのね。お父さんとお母さんって・・・」
有里が淋しそうに智子を見つめて言った。

正月が明けて久しぶりに智子は文子とランチの約束をした。いつものように滝の水公園の近くで会った。

「智子さん、お正月はどこか家族で出かけられたの?」
「いいえ、夫は自分の実家に一人で行って、私は子供達と実家で初詣に行ったぐらいです。文子さんは?」
「そうなの、ご主人と別々だったのね・・・ちょっと深刻なのね。大丈夫?私は家に居たわよ、誰も相手が居ないから」
「ええ、そうなの。私が少し近寄ろうとすると必ず反発してくるの。何故かこの頃そう感じる。悪い波長になっているのねお互いが。今は子供達と自分のことだけ考えてやってゆこうって思ってますの」
「そうね、むつかしい問題よね。離婚は簡単だけどその後に来る後悔はなかなか戻せないのよ。私は死別だったから忘れるだけの日々だったけど、離婚はきっと違うと思うの。経済的にも大変になるし、まだ子供さんたち学生でしょ。我慢して少し先にした方がいいわよ」
「離婚は考えてないんですよ。経済的なことじゃなくてお互いにもっと気楽に考えて生活し合えば、やれないことないって思えますの。それに、自分のやりたい事のために働きに出ようかと考えていますし」