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掌の中の宇宙 1

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窓から透して見る風景は大人の絵本の様な感じ
空は白い鳥たちが横切り、時にかいてんして
大地は延々と緑の草木が存在していている
この場所は少し高い処にあって・・・
今は記憶が制限されていて細かい所まで思い起こせない
風化した石達が何か意味を求めて折り重なっている
私は部屋に組み込まれた螺旋の鍵盤達を撫ぜる
例えば聞き取れないほどの高音だったり
やはり聞き取れない低音
其の役目が共感覚を呼び起こすものだと識ったのはだいぶん経ってからだった。
弾いているのは恋歌
記憶のような楽譜が特別な分類法で纏められている
例えばと思う
人々の住処が駄目になって
新たな星を目指す時
宇宙船の中で幾代も世代が変わる
宇宙船が何処か生命が宿れる場所に着いた時
其の宇宙船から唯1人吐き出される
それが私なら
私は星の記憶を記さなければならない
だって其れがないと
あまりにも悲しいし滑稽だから
例えば2人なら
その2人が偶然(必然的)にも生殖活動を行えるなら
私は愛を語らないといけない
だって其れがないと
あまりにも切ないしやりきれないから
外を見れば雨がふっている
私は鍵盤から指を離して窓の外をみる
思えば私は随分昔から此処に棲んでいる
最初の記憶もやはり雨模様で
私は赤い合羽を着て
郵便受けまで歩いていって
其処にはかえるがいて
私は其の時「世界が終わる」のを識った
螺旋の鍵盤達に名をつけてあげよう
旋律が可聴音域に入る時に貴方に逢えたらな
わたしの叫びが貴方に届くかなぁとか思う
私はこの世界では少しだけ特別な存在に位置していて
彼(α)がこの世界を創造する時
私は私なりに彼に対抗する術を持つ
数多の共鳴作用が導く厳密解は
ゲーデルの不完全性定理をすり抜ける為に
彼が用意した曖昧さの黒猫
私は現実を相殺する為だけに創られた虚数確率という存在を超えて
「世界を終わらせよう」とするその嘆きに耳を傾けて
其の旋律を書き換えて見たいと思う
死は私を壊せない
私は世界の模様を識っているから
世界が終わる為にはやはり私の存在は必要なのだ
私は扉の役目を担っている
しかし私は鍵でもあるのだ
ギークの王と私が死力を尽くしてお互いを切り裂こうとする時
私は全く別の場所で世界を斜から眺めている
「世界の終わり」は私の胸の中にある
私はアルソアでもありそして唯一世界そのものを識る者でもある
私は世界を透して私を救わないといけない
雨は降り止まない
それは呪いのようだ、術者を倒さなければ其れは解く事ができない
澄んだ水ような透明度の鍵盤たちがいる
旋律が光に導かれて走る
光と音の共感覚の為に私はその他を削りとってしまった
王にだけ対抗できる力
私は簡単な呪いでさえ解く事ができない
だから助けを求めている
縺れ合った糸を手繰ってそのどれかが私と誰かを繋ぐなら・・・
n+1降り続く雨に私は呟いて
其の呟きが誰かに届く事を願って

作品名:掌の中の宇宙 1 作家名:透明な魚