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掌の中の宇宙 1

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Episode. 0 Αγία Τριάδα




雨が降っている
部屋には映らなくなったテレビが一つ
砂嵐の風景
車の後部座席から外を見ると
雨に濡れた砂場があって
名残惜しそうに僕を見ていた
そうおばあちゃんの処に引っ越したっけ
小学校の裏の山の奥深く
大きな蛙たちが「ぼーっぼーっ」って延々鳴き続ける
歪な生と清らかな死が溢れていて
何処かしらない大昔の風景が
其処は隔離されたような
不自然な程の自然が存在していた
化石を深い森に投げ込んでいた
グミや野イチゴ
カミキリ虫とか蛞蝓
森は何処かへの扉の様で
森の少し奥には小屋があって
蛍光灯や集積回路や・・・
何かの部品がとにかく一杯に詰まっていて
其処は未来に繋がっていているような気がして
僕は君と何か装置を創ろうとしていた?
君?
うさぎが逃げた夜
僕はうさぎを探す事を両親に命ぜられて
うさぎを探しに森に入っていった
だけど
うさぎは実は逃げてなんかいなかった
僕は1人森に入っていって
家族は家で話をしていた
夜空を遮る深い森
ざわめく木々の囁き
僕はうさぎを求めて
ひよこ草を摘んで
それから不意に森にいる少女の話を思い出して・・・
【僕はその子と逢ったんだっけ?】


なぜか空間が赤く染まる
記憶に完全な可逆性を求める事は
脳を量子化する事とは結局・・・
記録の解析方法が今の僕には理解できないのかもしれない


家に帰ると既に両親は居なくなっていて
僕は暫くの間おばあちゃんと暮らす事になった
朝は太陽の光と共に生命の息吹を感じて
昼は学校で1人ぼんやりと時を過ごして
夜は決まって悪夢と過ごしていた
猫と犬と鳥と兎と深い井戸と傍に濁った池
大きな蜂の巣や
誰も住んでいない家が何軒か
僕の自転車にはスピードメーターがついていて
時速40kで坂を下っていた
自転車が空中分解して僕は空に投げ出される


あおいしろいゆっくりそしていったんとぎれる


【彼】は少し大人になった頃に一度壊れた
何度かの転校
そして人間関係
深い処にある意味不明の記録
森の記憶
二つの時計



αは絶え間無く生きる僕で
僕は一度彼を壊した
僕は・・・
Ωと名を即けられた希少な時空間
特別な時を刻む装置
物語の中の主人公として歩き続ける
僕は一度彼を壊した
驚くべき事に
彼は僕が壊す事で
【僕が存在する事を識った】のだ
そうなる様に仕向けたのは【彼】なのだ
そして
僕もまた彼を壊す事によって
【僕が存在する事を識った】


幼い頃の記憶が正しいのかどうか
正しいと言う意味を如何捉えたら良いのかわからないけど
とにかく今は【家】は其処には無い
其処は燃えてしまって・・・
だから僕は現実世界に於いてその場所を封印した


曼荼羅と想う
(僕は彼の激しい憎悪の対象でもあり羨望の対象でもあり)
彼は彼の為に僕を創った
僕は彼の為に彼を壊した
紙一重の差は未だ埋まってないと確信している
僕の存在する時空間は極端に制限されているけど
僅かな其処に莫大な力を傾ける事が出来る


物語がどの様な終焉を迎えるか
僕らが創造する世界に於いて
その細部までに於いて互いに手を加える事はできない
しかし
光と影は細かな空間に於いて侵食しあい縺れあう
君が冷徹な光を演じるなら
僕は慈愛の闇を演じよう
次の君の一手はどんな音を伴って世界を鳴らすのだろうか?
僕はもう直ぐ生まれて指先で曼荼羅を描く
唯一の模様は可逆できない
それとも・・・
君の微笑には影がうつるよ
僕は其処に光を与えよう今回も
作品名:掌の中の宇宙 1 作家名:透明な魚