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掌の中の宇宙 1

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Episode.-1 4番目の王



何時間ぐらい集中していたのか、目の前のカンバスには女性の姿が描かれている。
筆の入れ方から見て5,6時間だろうか?
そうであるなら、そろそろ外出の用意をしないといけない。
近くの村では今年収穫した葡萄の出来を祝ってささやかなお祭りが開かれている。
村の権威者として何か一言といわれているけど、何を話せばよいものか。
親の遺産でのうのうと暮らす若造に、其処まで権威を求めなくてもいい気がするが。
意識が朦朧とする。
絵の中の女性・・・。黒髪の・・・。これがフィーゴのこの世界での姿。
(・・・クラウディア)心の中に言葉が浮かび上がる
美しい瞳をしている。
しかしその瞳には悲しみを湛えてもいる。
自分の中の「もう1人の自分」
彼が描く「もう一つの世界」の風景は、いつも僕を悲しい気分にさせる。
僕はこの世界で何をすればいいのだろう?
・・・・。
もう一つの世界を描いたカンバスも、もうだいぶたまっている。
これらを繋ぎあわせて・・・僕は謎を解かないといけないのかも。
世界は未だ混沌としている。
それは現実の世界も然り。
いや、現実の世界の方がエントロピーの侵食は激しいのかもしれない。
心に映る風景はその人物の心の持ちようよって
滅びる事のない美しさを保ち続けるのかも知れない。

部屋の扉が慌しくノックされて、返事もまたずにソフィーがなだれ込んできた。
「あの執事、フットボールチームにでも所属してたのかしら?
思わず私も本気出しちゃったわ。こんな汗かいたの久しぶりなんだけど。
全仏でフルセットまでもつれた時もこんなに疲れなかったわ。
ねえミシェル?彼は完全に職業を間違えているわよ。
今すぐに彼を何処かそう・・・
マルセイユあたりにでもDMFとして送り込んだらどうかしら?
案外スーパープレイを連発するかもよ!」
確かに息の上がったソフィーを見るのは昼間では珍しいものでもあった。
「ああ、駄目だよソフィー、
彼はそのマルセイユからわざわざ引き抜いてきたんだから。
移籍金幾らだと思っているの?
かれ2002のMVP選手だったのにな。
だけど彼であっても君の侵入を止められないとなると・・・
仕方ないな、禁呪でもつかって
若き日のベッケンバウアーでも呼ぶしかないのかしら?」
そんな事を言っている僕を涼やかな瞳で見つめるソフィー。
(上手くのったつもりなんだけどな・・・)少し寂しい。
「どうでもいいけどまだそんな服着てるの?
今日はお祭りで、貴方主賓なのよ?
貴方がなにか一言言わないと収穫した全ての葡萄が
ワインに加工する事ができないのが良くわかってないのかしら?
全部貴方の土地から収穫したものなのよ?貴方一体・・・」
「ああ、わかっているよソフィー、しかし僕の土地じゃないよこれは・・・」
ソフィーは4枚の窓のカーテンを全て開いて・・・
夕焼けが部屋の中に忍び込んでくる。
「綺麗・・・」
「君の方が綺麗だよ・・・ソフィー」
なんとかキスする事ができて、後は僕が服を着替えるだけだ。
僕が隣の部屋で着替えている間、ソフィーは僕の描いた絵を見てまわっていた。
「今、プロヴァンス地方では人物画よりも風景画が主流ではないの?
それに・・・これは何処の異国の人達なのかしら?
貴方一体・・・。・・・あら?このカンバス『Luna』・・・
なにも描かれてないの?」
「ああ、ルナ・・・うん、この子は・・・
どうやらこの世界の住人ではないみたいなんだ」
「えっ?この世界?ああ・・・貴方のいつも言っている話の事?」
「うんそう。僕はもう一つの世界に存在する人達の
現実世界での姿を映し出す事ができるんだよ。」
「・・・そうなの。」
気の無い返事。しかたないが・・・。
「さあ準備できたよ、ソフィー待たせたね」
「ミシェル・・・凄く素敵・・」
「君の方が素敵だよ・・・ソフィー」
2度目のキス。
山の麓にある古城から出て行く二人。
世界は未だ回り続けている、ここは誰が創造している世界だろう?

作品名:掌の中の宇宙 1 作家名:透明な魚