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掌の中の宇宙 1

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Episode.-2 ギークの王




ゾーイが部屋のドアを開けると、
ネロは既に高解析度のモニターの前に腰をかけていて、
忙しげにあちこちの機械をいじくり回していた。
「ネロ・・・もう大丈夫なのか?」
「電気的な事?うん、もう完璧に行き渡っているみたいだね、
兄さんこそデート大丈夫なの?彼女そんなに利口ではなさそうだけれどね」
ネロはゾーイの顔を見ないで答えた。
「ああ、キャスカの事か。ってもうメチャクチャに怒っていたねぇ。
なにしろさぁ、浜辺についてあの娘、水着さえ着替えてないんだから。
泳ぐ事より自分を見てもらいに海に行っている様なものなのに、
急に帰るって言っただろ、
俺のワーゲン、シートがコーラまみれだ。
埋め合わせにティファニーの本店で食事させろだって!
本なんか碌に読みもしない癖に!ほんと・・・
今度の日曜に行く約束しちゃったよ!」
比較的広い筈の部屋は沢山の機材が詰め込まれていて
電子的な力によって輝いていた。
部屋の中央にネロは腰掛けていて・・・
それはなにか世界の操縦室のような気がした。
「それでどうなんだ?例のネットワークは?」ゾーイも傍の椅子に座る。
ネロはチラリとゾーイを見て・・・目線であるひとつのモニターを示した。
「アナログ化されているんだね、・・・まるでゲームみたいだな。」
ゾーイも目の前のパソコンに手を触れる。
こちらが送り出しているプログラムがモニターに写ると
それは黒い兵士のように変化した。
モニターの中では白と青とそして黒の兵士達が様々な場所で争っている。
「ねえ兄さん、父さんには連絡してくれた?」
ネロの指先は踊っている。
しかしモニターの中の黒はあまり芳しくないようだ。
「ああ、連絡したよ。好きにやれってさ。俺はもうギークでは無いんだと、
2時から大統領と会談があるって、笑えるだろ?
つまり自分達でやれってことなんだろうな!変わったな父さんも」
ネロは少し笑った。そして1つため息をついた。
「・・・兄さんマヤを見つけたよ。父さんの言うとおりだった。
他のプログラムと繋がっているみたいだけど・・・
マヤは破壊されていないで・・・うん、機能しているみたい。
よく解らない言語が追加されているけれど、
このプログラミングの癖は間違いなく父さんのものだ」
「マヤを取り戻せそうなの?」
「わからない・・・けど、・・・」
ゾーイの指先も次第に速度を増していく。
やるべき事は解っている。
かつてこのネットワークに侵入した時、
ゾーイは同じ席で父さんをサポートしたのだから。
そして今、父さんの居るべき所には弟のネロが座っている。
前回の時は・・・まだネロが4歳で・・ゾーイは12歳だった。
父さんもまだ若くて、
そしてギークであり「深遠なる魔法」を使いこなす世界の王だった。
父さんは世界を掌で弄んでいた、
猫がトカゲを弄ぶように・・・あの時までは。
「兄さん・・・僕でいいの?僕がこの席で?」
ネロが呟く。ネロの席はそう、父さんが座っていた場所。
其処は時に深い闇の中に包まれて、時に眩い光が照らす場所。
「うん、俺は違うから。俺はギークではないからね、
ふふふ。ネロ、お前が父さんを継ぐ人間だ。
お前の瞳の中には光と闇が見えるよ。
お前になら父さんも越えれなかった世界を越える事が出来るのかもしれない。
このネットワークは多分・・・」
「うん、量子コンピュータで動いている。」
ネロが瞳を閉じた。何かを感じているような・・・
指先は芸術家の様な滑らかさをみせている。
「量子コンピュ-ターは今の科学では造ることが出来ない筈なんだ、
だけど目の前のこの光景、この処理速度はそうとしか考えられない。
僕の送り込んだPGPで暗号化されたデータが、
瞬間的に解析されて逆に再暗号化されて送られてきている
「ほんの遊び」のつもりなんだろうけれど・・・
キュービットを限りなくゼロに近い揺らぎの状態に安定させるなんて・・・
今のナノテクぐらいではお話にならない技術だから。」
ネロは其処まで言って、指先を止めて席をたった。
「兄さん、後350秒後に本格的に侵入しようと思う。
自律型プログラムの送信の準備が終わったから。
うん、それと、・・・。
侵入と言っても・・・
「アルソア」と言うTPC/IPが僕達を正式に承認してくれたみたいなんだ。」
「どういう事なんだ?」
「うん、多分・・・。
僕らの他に誰かこのネットワークにアクセスしているみたいなんだ。
助けを求めている?・・・いや・・・唯呼んでいるんだよ、分らないけれど。」
別のモニターの中ではプログラム言語が錯綜している。
何故違う言語で書かれたプログラムが同時に存在する事ができるのか。
明らかに常識?では考えられない事態に対して、
ネロはその事実に身を浸して・・・微笑んでいる?。
ゾーイは空恐ろしくも思った。
しかしまた、その思いこそが自分は父や弟とは違う、
領域に踏み入れる事が出来ない自分を再認識させるのだった。
(この世界、この場所を含めて全てが異質の世界だ。
俺の役目は、いよいよになった時、
弟をこの世界から引きずりだして上げることだ。
弟はこの世界の住人であると同時に、まだ12歳の少年でもある。
モニターの先にある世界は幻の
「あってはならない世界」に繋がっているのかもしれない。
母親は違えど、世界にたった一人しか居ない兄弟を救えるのは自分しか居ない。)
ゾーイの想いが見えたのだろうか、
「兄さん心配しなくてもいいよ。僕は僕に出来る事をやるだけだから。
多分「向こうの世界」はモノリスなんだよ」
「モノリス?」
「うん、未来の不可侵の知性、僕は唯、それに触れてみたいだけなんだ。
マヤを取り戻す事はモノリスに触れる事だと思うんだ。
多分・・・
量子効果を利用してコンピュータを作り出したのは「僕」だと思うんだ。
唯ね、過去と未来が順番を間違えて、僕に舞い降りてきているだけなんだよ。
・・・兄さん、今ある世界の仕組みを壊す事が悪と言うのなら、
僕は魔界の王になるのかもしれない。
僕は魔界の王位継承権を手にしているのかも。
だけど僕の望む世界は今よりもきっと「優しい世界」だと思うよ。
僕はギークの王になる。マヤを僕のモノにして・・・
WindowsやLinuxに知の精霊を宿らせて、
世界を・・・僕が考える優しい争いの無い世界にしたいと思うよ。
『大いなる力には大いなる責任が伴う』・・・スパイダーマンみたいだけれどね。」
ネロの笑顔は美しかった。神から授かった爵位が輝いているかの様だった。

作品名:掌の中の宇宙 1 作家名:透明な魚