掌の中の宇宙 1
モニターの回線が切れて、アレクサンドロは即座に部屋の外に回線を繋げる。
「位置を傍受できたか?」
「・・・駄目です。アクセスポイントだけでも9億以上・・・
位置を特定できません。
長官、量子転送システムのメインプログラムを
とりあえず博士の位置特定に対して使用する事はできませんか?
このシステムを応用すれば或いは・・・」
「駄目だ!このシステムは全て博士の作りあげたものだ。
我々はこれを組み上げて使用する事はできるが構造を理解する事ができない。
恐らくこのシステムには様々な対策がとられているだろう。
このシステムを他の用途に使用する場合には
それなりのリスクを覚悟しなくてはならない。
とにかく核となる集積回路だけでも理解しなければ・・・。
このシステムそのものに時限的な罠が潜んでいるのかもしれない。
組織の権力と資金を使って出来る限り人物を集めて・・・
集積回路の箇所だけを見せて多少の理解を示すものだけを集めて
プロジェクトチームを結成したいのだが・・・。
・・・物語の時間が迫ってきている。
システム全般の事はとりあえず君等に任せる。
今直ぐに最優先でとりかかってくれ、
それと被験者の転送準備はできているか?」
「はい、完了しています」
「・・・・」「・・・・・・」「・・・・」
幾度かのやりとりの後、アレクサンドロは全ての回線を切った。
そして目を閉じる。
世界は未だまわり続けるコインのようだ。
何もかもが揺らいでいる。
被験者の1人、女の子の精神が彼の部下達の操作で
もう一つの世界へ銀の羽として転送されてゆく。
彼女は短命種の一族で、
精神の急激な発達に身体が持ちこたえれない症状を抱えている。
アレクサンドロ達は、彼女を利用すると共に、
現代医学では到底辿り着けない場所へと彼女を運んでいく。
彼女も契約をむすんでいるのだ。
もう一つの世界には様々な人々が引き寄せられていく。
(タイラー博士の次男も同じ因子を持つ短命種・・・。
彼はそれをもう一つの世界でクリアしたと話していた。
しかしそんな事が可能なのか・・・?)
運命と運命が引き寄せられて物語が続いていく。
アレクサンドロの意識も深い深い、水底ような世界に入っていく。
世界は幾つもある。これは誰の想像している世界だろう?