掌の中の宇宙 1
Episode.-5 使い魔と修羅
「形而下の世界が終わろうとしているみたいで
私は其れを食い止める為に降りて行くみたい。」
フィーゴは夜空の瞬きを遠く眺めながら呟いた。
ミッキーは少し離れた傍で突っ立っている。
フィーゴは崖の先端に可愛く腰掛けて髪を触っている。
足をブラブラして深淵の谷底をからかってる。
第Ⅷ事象限定空間に於いての深淵は其のままに冥界に通じる世界で
静かに耳を澄ますと
嘆きや苦しみが倍音の蝶として魅了してくる。
「一度受肉してそして又形而上の世界に浸るなんて・・・
面倒だし今更興味無いケド・・・」
「何時此処を離れるの?」
ミッキーは尋ねた。
「何時だって良いんじゃないかしら?
貴方に答えないといけない訳?」
待っていましたとばかりに氷の言葉を並べるフィーゴ。
「フィーゴ言いたい事があるんだ・・・ああ
多分僕は君を何物にも替え難い程に
多分良く解からないけど
多分これが愛していると言う事かもしれない。」
フィーゴは首を傾げる
目を閉じたり開いたり・・・
なんとなく谷底に飛び込もうかという気分にもなる
勿論其れは嬉しさを巧く認識できない幼さでもあるのだけど
「貴方が・・・」一呼吸
「貴方が幾らそんな事言ったって、
私はもう直ぐ何処か知らない処に
記憶やなにもかも失って舞うように降りて行くから
貴方の顔やなんだか全て意味が無いし・・・」
両手で顔を覆う。
「僕も其処に降りて行こうと思う、君と同じ世界に。」
「は?貴方『時』の理も『空』の理も修めて無いじゃない!
第一、転生するのは1人だけなのよ!
これ以上イライラさせないでくれる?」
「フィーゴ・・・僕は『時と空の試練』を受けるよ
そして君と同じ世界に降りて行くよ。
僕が試練を耐え抜いても僕はその身を修羅に脅かされているかもしれない
僕が僕で無くなっていても君は僕を僕に僕を僕だと思ってくれる?」
ミッキーは震えている、元々素質も無ければ勇気も無い子なのだ。
その子が時の魔人と空の魔人の用意した試練を突破したいと言っているのだ。
もう幾時もその試練を潜り抜けた者はいなくて
挑んだ者達は皆魔人の番犬の餌になっていた。
「貴方がもし時空の理を其処で得て、私の宿る世界に来てくれるなら
私は貴方と出会うとき、私の中の時を貴方に与えたいと思う。」
其れは高等呪文のような響きで空に舞う光の影のようだ。
「僕が再び君に出会ってもお互いがお互いを分らないかもしれない
そして僕は修羅の力に自分を保てていないかもしれないそれでも?」
フィーゴはミッキーにキスした。
「私は光速で世界を駆ける事ができるから
貴方がそれ以上に光の障壁を打ち崩す力を身につけたなら
私はその存在に対して私を超える者として愛を抱かない訳にはいかないもの
私を凌駕する力を持つ事が条件
私が闇に侵された貴方を必ず探してあげる
例え私たちが違う王を抱いたとしても
私にとっての空は貴方だと教えてあげる・・・」
目が覚めた、いつも此処で目が覚める。
ノートにマークする。
数え初めて×××回目の同じ夢
多分もっと昔から魅ていたと思うけど・・・。
「クラウディア、早く起きなさい!今日は先生がおいでになる日よ、
直ぐに準備してちょうだい!」
(もう起きてる)と思う。
ベットから出て鏡の前に立つ
黒髪をわけて少し斜から自分を見る
もう夢の内容を忘れてしまった。
とても大事な事だと思うケドいつも忘れてしまう。
記する事も出来ない。
(不可知性・・・鏡の中の私?)
母親が部屋に上がってくる
「美しいのはわかったから早く準備して、貴方1番になるんでしょ?
フェンシングもピアノもテコンドーも。」
(え?私が1番になりたい?なんで?)
【違うよ、1番になりたいじゃなくて、1番だから此処にいるんだ】
「誰?」私は探した、誰かを。
鏡の中で少し微笑んだ自分自身。
私は少し考えて・・・そして鏡に少しほほ笑んだ、そして母親にも。
「そうねママ、私は『1番』と言う花が似合う子だと思うもの。頑張る」
クラウディアは傍にあるピアノに触れる
バンバンとモーツァルトを叩く
母親が耳を抑える。
「何でそんな荒々しく弾くの、頭がおかしいと思われるわよ!」
「え、だってこれが『オリジナル』なのよママ。」
クラウディアの笑顔は太陽のようだった。