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掌の中の宇宙 1

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Episode.2 エージェント



家の前には大きな車が止められてあった。
ハンドルが左についている。凄い運転技術だ、
この車で坂道を登って来たなんて・・・?
・・・ただのアホかもしれない、とにかく何か異常な感じがした。
犬は夕飯を食べていた。魚の煮付けの残りとご飯・・・。
鶏たちはもう眠りの時間みたいで、皆小屋の中に収まっていた。
家の中から笑い声がする、男の人の笑い声、それと僕のお婆ちゃん。
玄関には知らない靴が二組あった・・・
猫達は入ってこない、どうしたのだろうか?
僕はランドセルを置くことも無く客間に歩いていった。
居間のソファーに全身黒ずくめの男が二人
向かい合ってお婆ちゃんが座っている。
黒ずくめは僕を見ると、少し首を傾げて挨拶をした。変な感じ・・・。
差し出された名刺には「ジミー・ジメリーノ」と書かれており、
もうひとりのには、「ミッキー・ミケラーノ」と書かれてあった。
うちのお婆ちゃんはソファーから立ち上がり僕を出迎えた。
彼らはソファーに深々と座り込んでいて、
うちのお婆ちゃん特製のお茶を飲んでいる。
ミッキーは其れが苦手なようだ。口も付けていない・・・
喉が渇いてないだけなのか?
僕は、なにかゾクリとした。家に帰る前はお腹も少しは空いていたが、
隣の部屋に並べてあるおかずを見ても、何も感じず、唯、寒気が続いていた。
お婆ちゃんの様子が変になってきた。
お婆ちゃんはその場でぴくりとも動かなくなってしまった。
ミッキーがやれやれという風に肩をすくめる。
お婆ちゃんが喋らなくなってから、ジミーがおもむろに口を開いた。
「ネネム君、こんばんわ。」
僕は、お腹にそれとなく力をいれて・・・。
「これは冗談ですか?冗談なら止めてください、そして今すぐ帰ってください。
僕は今日、色々あって疲れているんです、もし用事があるにしても、
また、出直してきてもらえないでしょうか?僕はいまから夕飯なんです。
まだご飯をたべていないのです。
・・・昼ごはんも満足にたべてないのですから。
わかりますか?帰ってもらえませんか?」
一応の無駄な抵抗をしてみた、無料なので。
「はい、それは無理ですね、全て却下です。
冗談だと?そっちこそ冗談じゃないよ!」これはジミー。
お婆ちゃんが殆ど動かなくなると途端に口が悪くなった。
僕が舐められているのか、
それともやはりこの二人も、お婆ちゃんの事が何となく怖かったのだろうか?
「っていうか、勘違いしてませんかネネム君?
むしろ私達の方が『呼ばれて飛び出て』
って言う感じなのですよ?
そのこと解っています?」これはミッキー。
「うん、ご存じないでしょうね、えーとしかも時間ももう余りないので、
単刀直入に申しますとね、
つまり、『ウサギ』ね、うん、逃がしたウサギですよ、
あれね、貴方、まだ捕まえてないでしょ?
学校の裏山に逃げたままなんですよね、どうしましょうか?」
僕は顔が真っ赤になった。
おちょくられている、菊田先生どうしよう、とも思った。
「うん、もう本当に時間が無いんですよね、
わかりますか?嵌められましたね、貴方罠に嵌められて契約を交わしていますよ。
『ウサギ』、本当に逃げたままですから。
早く、一刻も早く最後のウサギを小屋の中に返さなければ、
色々と面倒な事になってしまいますよ。
それは、困るのでしょう?私達も困るのです。
バランスが崩れてしまいますからね、まあこれはあれですが。」
僕は唇を強く噛んだ、悔しいときの僕の仕草。
菊田先生が・・・うわ、まずい。桜先生は大丈夫なのだろうか?
「ああ、桜先生の事ですか?
どうでしょうね?多分大丈夫だと思いますよ、その件に関しては。
エーとですね玄関を学校と繋いでおきましたので、玄関へ向かってください。
先ほど黒猫の・・・『月読みのフィーゴ』君が学校に向かっていきました。
彼女が先生達に憑いたもの達を退治してくれるのではないでしょうか?
しかし『最後のウサギ』に関しては
・・・それは貴方が契約を結んでいますので、
貴方しか解く事はできませんからね。
時間と空間は私達が最大限引き伸ばしますけれど、
あとせいぜい・・・
この華のはなびらが全部散るぐらいの時間しか残されていませんよ。」
ジミーの掌から玉虫色の花が一輪湧いて出た。なんとも言えない花?
炎の様にも見える。
僕に手渡される、華は或るリズムを刻んでいるようだった。
鼓動?の様な。
「うん、この華が時を刻みますからね。
もう解っていると思いますが、今は時間と空間が非常に
不安定な活動をしています。慎重に事を行ってください。
でないと一瞬で華が枯れる事も
アリエマスノデ。ソウナルトアナタハ・・・」
恐らく、この二人を信じた方が良いのだろう。これは僕の直感だった。
給食を残した罰がまとめて訪れているのだろうか?
僕はそんな風にも考えていた。
ジミーがボンヤリとした瞳で僕の方を見ている。
「もういいよ、どうでもいい!こいつをやってしまおうぜ!」
見たいな感じ。
僕の心臓も熱くなる
僕は慌てて胸を抑えた、ヤバイ、変な感じになっている。
とりあえず学校に行かなくてはと僕は思った。
もし2重に騙されているとしたら・・・そんな考えも頭をよぎった。
しかし・・・。
僕はジミーに一瞥をくれると、玄関に向かって走った。
玄関は何処と無く揺らいでいるような・・・。
ドアのノブが消えている。
ドアは勝手に開いて、僕を何処かへ飲み込んでいった。
作品名:掌の中の宇宙 1 作家名:透明な魚