真夏の逃避行
「通行人が居ないからいいけど、泣いているのを見られると拙いな」
漸く幹線道路に出た。
「あの部屋、凄くきれいにしたんです。見たら契約したでしょうね」
「……あなたがお掃除したの?」
「そうです。後ろの荷物はあの部屋から運び出したものです」
「そうなんですか」
女は紅く腫らした眼を背後にやりながら云った。
車は山のある方へ向っている。パトロールカーがミラーに映っているのに、早川は気付いた。スピードを法定速度に落とす。その十分後、相変わらずガソリンスタンドを探していた。後方には執拗なパトロールカー。それは、スピードが出そうなハイグレード車だった。
「マークされてるのね」
「そう思いますか?」
「判りません」
「余計なことは云わないでください」
早川は苛立っていた。