真夏の逃避行
もう一度、アクセルペダルを踏み込んだ。キイをまわした。やはり、エンジンは動かない。
「馬鹿!早くもう一度」
同じことをした。振動と共にエンジンがかかった。
「良かった」と、女。
「シートベルトを忘れないでください」
「はい」
一瞬、エンストしそうになったが、なんとか前進した。
「……マンションの、あの部屋を借りようとしていたひとですね」
最初の角を曲がった。
「そうです。お休みだからって断られたのに、どうしても見せて欲しいって、無理をいったらこんなことになってしまって……」
「犯人を見ていないんですね」
「見てません!」
女は激しく泣き始めた。嗚咽は暫くの間続いた。