真夏の逃避行
探してみるとガソリンスタンドはないものだ。潰れたスタンドばかりが目立った。そうこうするうちに、オーナーの住まいの豪邸の前に着いてしまった。時刻は十四時になるところである。
寺院のものを想わせる立派な門の扉が、少し開いているその隙間から、枝ぶりの良い松が植えられた庭園の奥に、建てて間もないらしい豪壮な和風の二階家が見えた。昨日はオーナーが経営する不動産会社の方へ行ったので、この家を訪れるのは今が初めてである。
不動産会社は今日は休業日なので、それで自宅を指定されたのだった。
その家の広い玄関の中に立つと、予期していた新しい畳の匂いではなく、水か魚が腐ったような、あるいはもっと別種の悪臭が、立ち込めていた。彼の足元には、何足かの靴が散乱していた。早川は戦慄を覚えていた。
エアコンのせいで屋外よりは随分涼しい。それなのに、早川の首筋や頭部から、汗が噴き出した。
「こんにちは。回収屋です!」
奥へ声をかけたが、返事はない。おかしい。早川はそういうときに限って大きな声が出ない。廊下には土足で歩いたらしい汚れが、うっすらと感じられた。これは絶対におかしい。それでも、彼は靴を脱いで上がった。