真夏の逃避行
彼は陸橋の下のいくらか涼しいところで停車させ、オーナーの家に電話連絡をすることにした。
「回収屋の早川です。すべて積み込みました。掃除もしておきました」
どすのきいたオーナーの声が応えた。
「そうかい、ご苦労さま。二時半に次の借り手候補に部屋を見せることになったから、ちょうど良かったよ」
小心者の早川は、ドキドキしながらその声を聞いた。
「ぞうきんがけもしておきましたから、新築同然になりましたよ。あと三万五千円、ご用意いただけましたか?」
「三万円じゃなかったのか?まあ、いいや、ぞうきんがけまでしてくれたのに、値切るのも理不尽だからな」
「ありがとうございます。あと十分で着きますから、よろしくお願いします」
「わかった、わかった。暑いのに大変だったろう。ありがとうよ」
早川は電話のあと、車の燃料が残り僅かなことに気付いた。処分業者のところまでは三十分以上かかる。急な登り坂もあるので給油することにした。