真夏の逃避行
早川は外に出て、車のサイドドアを開けた。懐中電灯の光でスポーツバッグの中を確認した。正真正銘の札束だった。ひと束に一万円札が百枚づつ。それをひと束づつ、毛布の上に並べていった。
ちょうど五十束だった。
「ああ、いいお湯だったー。多分ね、四十五度は確実だわ。底がちょっとざらつく感じだったけど、そんなことは些細なことよ。ああ、生涯最高の入浴体験よ」
「気に入ってもらえてうれしいよ」
「真夏の想い出ができたわ」
「いつまでも、忘れられない想い出だね」
はるかはみずみずしい風呂上がりの顔に、俄かに驚きを表した。
「凄い!あれ、札束じゃない?!」
小屋からの淡い光が、開いたサイドドアの中を照らしていた。はるかはその傍へ行った。