真夏の逃避行
小屋の周囲には、かろうじて三台分程度の駐車スペースがあった。下は未舗装である。車から出ると、薄ら寒いくらいだ。微かに、フクロウの声が聞こえた。硝子戸の中は畳二枚程度の板張りである。そこに脱衣籠がたったひとつだけ。
その奥が三畳くらいの大きさの、タイル張りの湯船。身体を洗うスペースなどない。太さ七十ミリくらいの、消防ホースのようなものが窓から侵入し、無造作に湯船の底に転がっている。源泉から直接引き入れている温泉なのだ。
「虫ちゃんもお風呂が大好きです。溺れていたら捕虫網ですくってあげてください」
壁にはそんな表示。そして、その道具が立てかけられていた。カナブンが一匹浮かんでいたのを、早川は捕虫網ですくい取った。底には数枚の落ち葉が沈んでいる。それも取り除こうとしたが、うまく行かない。
「いいじゃない、落ち葉くらい。でも、きれいなお湯ね。透き通ってて……あっ!熱いのね。でも、ぬるいのよりいいよ。最高のオンチョンよ!」
既にタオルを用意していたはるかが、先に入ることになった。