真夏の逃避行
五千万円
上流で夕立でもあったのだろうか。ごうごうと勢いよく流れる川を渡った。老朽な軽貨物車は、鬱蒼と繁茂する樹木に覆われた山道に入った。懐かしいような山の空気、山のにおいが感じられる。急カーブの度に、荷台から金属やプラスティックがぶつかり合う音がして騒がしい。
もはや、闇の中を登っていた。突如、道路わきにシカが現れたが、あっという間に姿を消した。早川は得体の知れない声を、聞いたような気がした。停車してエンジンを止めても、濃密な静寂に嘲笑われるだけだった。横を見ると遠い街の夜景がひろがっている。
「初めてはるかさんを見たとき、眼の感じが凄く印象的だったな。長い間会えなかった肉親と、再会したみたいな気持だった」
「わたしはね、イケメンの男性は好きじゃないのよね。だから、早川さんは……」
早川は再び車を発進させた。
「顔とかスタイルだけで、好きとか嫌いとか、最初は思ってしまうけど、その人を知って行くともっと大切なものが見えてくるよね」