真夏の逃避行
「生きてるうちに親孝行はしておきなさい。なんて、偉そうに……ちょっと気になるなぁ。ジープがずっと従いてくるんだよね」
ミラーに黒いジープが映っていた。ずっと、百メートルくらいの間隔を保っている。カーブでは見えなくなる。間もなくまた、現れる。不気味だった。
「解った。スポーツバッグを狙ってるのよ。中身確認した?」
「忘れてた。もしも本物だったら凄い金額だね。重かったから」
「一億円で十キロだって。そのくらい重かったの?」
「そこまではないね……四千七百万だな」
「それでも凄いわね……何?!どうしたの?!」
急ブレーキで車を路肩に停めたのだった。
「無関係の車だったら、通過して行くだろうって、そう思ったわけ」
五分以上待ったが、ジープは接近してこなかった。途中の農家が所有している車だったのだろうか。それとも引き返したのか。急に、ヒグラシが鳴きやんだ。谷間には夜の闇が迫りつつあった。