真夏の逃避行
今は無人の、野菜の陳列台の前を通過した。暫く農道を走った。その後、渓流に沿ったカーブの多い道になった。涼しくなってきた。降り注ぐヒグラシの声が、左側の川の流れの音と共に、もの悲しい気分にさせた。右側に時折狭い田が現れて、そこに案山子が倒れそうになりながら、それでも頑張っている。如何にも貧しい風情の、点在する農家。そんな農家の外壁にはふた時代も前の、蚊取り線香の広告があった。
「携帯でニュース、見られるんじゃない?」
そう云ったのは早川だった。
「そうね。そうよね。忘れてた……あっ!だめ。充電が切れてる」
「そうかぁ。こっちのも同じだよ。関東に大地震があっても判らないね」
「親にも連絡できないわ。心配してるね。早川さんのご両親も……」
「両親はいないよ。いたとしてもここは圏外だし……」
「また余計なこと云って、叱られちゃうね」
はるかは泣きそうな顔になった。