真夏の逃避行
「それで、凄く洗練されてて?」
「覗きに行ったの?」
「行きませんよ。あごひげと長い後ろ髪なんて、一瞬たりとも見てません」
でたらめを云った。
「あー。なんか、可愛い。学君を好きになりそう。その中性的なところがたまんなーい」
よく見ると、はるかの顔の赤みは、夕焼けのせいだけではなさそうだった。
「ワインを飲んできたんだ!いいなぁ」
「判った?ちょっとだけ。南フランスの話でもりあがっちゃって。ごめんね」
「こっちは温泉に入りながらも、如何に安全に逃げのびるかを必死に考えていたのに……」
「そうよね。ごめん、ごめん」
「KYのはるかさん!相当美味いのを作ってくれないと、俺はキレるぜ!」
早川は俳優気取りで云った。
「わー!かっこいい。見直しちゃったぁ。頑張るわよ。シェフにお料理のコツを聞いてきたの。期待してていいわよー」