真夏の逃避行
警察官は提示されたものを見ながら云った。
「不況のせいか、頭がいかれた連中ばかりで困るよ。更新は来年だな。早く行け、このアホンダラ!」
早川たちの車は、ゆっくりと発進して移動を再開した。暫く行ったところで「やったね!」と、ふたりは声を合わせて笑った。
「何かご褒美は?」
「とびっきり上等の、源泉垂れ流しをプレゼント」
「それを云うならかけ流しでしょ」
「英語で云ったんですよ」
「韓国語で温泉はオンチョンだけど、かけ流しはわからないな」
「アンニョンハセヨ!な、わけないか」
前方に美しい田園地帯が広がった。西日を受けた積乱雲が、ミラーの中で輝いている。街路樹には夥しい数のムクドリ。その囀りは、田舎では希な喧騒である。更に、蝉の大合唱がそれに重なる。
早川はこのあたりの山のどこかに、村営の温泉小屋があったことを想い出していた。