真夏の逃避行
早川もこみ上げてくるものがあった。人生はときどき不思議な展開を見せてくれる。どんなに絶望的な状況に於いても、決して諦めてはいけないと、早川も瞼に涙をためながら、それをはるかに見られないように、顔を背けながら思った。
車が幾らか前進した。そのとき、ずっと前方の高台に、赤色灯の点滅が見えた。この渋滞の原因の主原因は事故か検問らしい。
「ここでUターンをしたら、キレますよね」
「十中八、九そうなるかも」
仮に検問だとしても、まだ午後五時前である。明るいうちに始まるそれがアルコールチェックとは考えにくい。かと云ってシートベルトのチェックとも思えない。逃走した殺人犯を検挙するための捜査の一環。そうだとすればその場合、カップルであることは、有利なのか不利なのか。
「あっ!脇道だ。レッツゴー」
左斜め前方への道だった。こんなときはカーナビが欲しいと思った。この地域の地図を持っていた筈だが、満載の荷台を見ると、それを探す気にはならない。住宅地の中の道は、国道と並行しているように思われた。つまり、旧道ということになる。