真夏の逃避行
このアルバイトを始めてから、既に三箇月という時間が過ぎ去ったという事実を、車を発進させながら早川学は、不思議に想った。
このところ、同業者が急増している気配である。長引く不況がリストラによる失業者数を増大させ、同業者を増殖させている。そのせいで日に何度も、狭い住宅地の中の道で、同業者の車と鉢合わせとなることが少なくない。
今日は八月の最初の土曜日なので、屋根のスピーカーを鳴らしながら、老人が歩く速度で住宅地を流せば、或る程度の収入を得られた筈だ。
だが、木曜日の夜に電話してきた男から依頼され、早川は昨日からマンションの空き家に残された荷物を処分していた。昨日の夕刻には、テレビやラジカセなどを「社長」の倉庫に運んだ。今日はタンスやベッド、ふとん、ソファーなどのほか、調理器具や食器などが主な処分品である。どれもまだ使える物ばかりだった。
アウトドア用の折りたたみ椅子とテーブル。殆ど未使用と思われるカセットコンロとボンベ。それら幾つかの物は、処分しないで持ち帰ろうと、彼は思った。
「社長」というのは早川より五歳も若い童顔の男で、廃車寸前の軽貨物車をどこからか十台程買い集めていた。彼は車の数に対応する人数のアルバイトの人間を使って商売をしている男である。