真夏の逃避行
「これでお願いします」
一万円札だった。普通はその半分程度である。
「おつりを持ってこなかったんですが……」
「要りません。手伝いましょうか?」
「大丈夫です」
さやかが早川の腰の辺りを軽く叩いた。
「よろしくお願いします」
「わかりました。台車は玄関の外に置いて行きます。じゃあ、失礼します」
早川が押して行き、エレベーターに入るとき、はるかにも手伝ってもらった。
「一万円も頂いて、お礼のひとことくらい……」
「この商売はそういう姿勢ではだめなんです。処分に困っている人のほうで、助けてもらったと思わせるんです。感謝して頂ければ、また呼んでくれるんです」
「そういうものですか。でも、またここまで来るのはいやでしょう?」
「二度と来たくありません」
重いテレビを苦労して運んできたものの、車の中は一杯だった。こんなことは珍しいことだった。テレビは四十インチの大型なので、積み込むスペースがない。先に積んであるソファーの向きを変えたり、ベッドのマットレスを積み上げたりしてから、苦労して二人で重いテレビを積み込んだ。