真夏の逃避行
「番号を車の屋根に大きく書いてあるんです」
さやかは感心しているようだった。早川はハンドルを回し、マンションの玄関前へ移動した。
「手伝ってください。大型のテレビなんです。利益の半分は、即金で差し上げます」
「また余計に汗かいちゃうなぁ」
「あとで温泉を探しますから、そこで汗を流してください」
玄関のインターホンで客を呼んだ。声の感じが中年男らしい相手と繋がると、オートロックを解除してもらい、ロビーから二人でエレベーターに入った。
「まさか、一生手伝えなんて、云わないでしょうね」
「女子アナ兼回収屋。面白い人生ですね」
「やだ、そんなの。勘弁してくださいよ」
そう云いながらも、はるかは笑顔になっている。早川も笑顔を見せている。
「あっ、もう着いた」
エレベーターの前に、笑顔の中年男性が立っていた。
「カップルの回収屋さんですか。すぐそこですからお願いしますね」
そう云って笑った。
その黒い大きなテレビは台車にのせられて、既に通路に出されていた。
「これだと、無料で回収はできませんね」