真夏の逃避行
「着替えも買ってきました。ここは便利ですね。値段も安いし……」
「じゃあ、行きましょうか。何か必要なものを忘れてませんか。この先山に入りますからね」
「大丈夫です。虫よけスプレーも買ってきました」
「セーターはありましたか?夏でも山は寒いかも知れませんよ」
「ブルゾンを買ってきました。もう、引っ越しは秋までお預けね」
「そうですか。困りましたね……じゃあ、出発します」
走り出して間もなく、渋滞につかまった。対策を考えていると、早川の携帯電話にまた着信した。
「はい。早川です……済みません。遠いところに来てしまっているので、来週にでも……えっ!そうなんですか?」
早川は車の外に首を出した。そして、上に向かって手を振った。
「ええ、解りました。急いで伺います」
「どうしたんですか?」
「テレビを回収してくれって、頼まれました。右のマンションの八階です」
道路に面して八階建ての白いマンションがそびえている。
「スピーカーから音は出てませんよ。あなたの携帯、どうして知ってたんですか?」