真夏の逃避行
早川は鳥肌立つほどの感動を覚えていた。
「いやいや、そうですか、そうですか。どこかで聞いた声だなぁなんて、これっぽっちも思ってなかったんですが、へえー、これまでの人生の最悪の日になってしまったと思った今日が……」
「やっぱり、最悪ですよね」
わざと男のような声色で、佐伯はるかは云った。
「しかし、あなたの声は絶対に間違いなく最高です。たくさん録音して、コレクションしています」
「顔を見てがっかり、でしょう」
早川は改めて横目に彼女を見た。
「はっきり云って、声から想像していた姿とは……だけど、好みのタイプと云えないこともないです」
「みーんな、おんなじことを云いますね。声だけはいいからうぐいす嬢とか、云われちゃってます。鶯って、姿は良くないのよね」
「男は外見だけじゃない、なんて云いますけど、女性だって心がきれいなひとがいいですよ。人間の価値は、思いやりの質と量で決まるんです。さやかさんはあたたかい人だと、ずっと思っていました」