真夏の逃避行
彼は仕事で使うラジカセのスイッチを入れた。
「御家庭内で、御不用となりました、黒色カラーテレビ、パソコン、ミニコンポ、ラジカセ、ミシンなどはございませんか?……」
屋根に固定したスピーカーから大音量で、若い女の声が流れた。早川は慌ててカセットテープを止めた。
「高速道路でこんなの流したって意味ないですね」
「もう、芸術的にドジなんですね!」
女は腹を抱えて笑った。
「ドジですみませんね。あっ!これ、昨日壊れたんだ。ラジオが聞けなくなったんです。FM-Jステーション。佐伯はるかのアフタヌーン・ミュージック。昨日聞こうとしたらだめだったんですよ!」
「……えー!せっかく頑張ったのに、聴いてくれなかったんですか!」
早川はまた驚かされた。声が似ているような気がした。
「もしかして……佐伯……はるか、さん?」
「実は……そうなんです。先週までは聞いてくれていたんですね。ありがとうございます」
「本当に?……本当に、佐伯はるかさんなんですか?」
「そうです……真夏日の午後、ご機嫌いかがですか。佐伯はるかです。あなたが少しでも涼しくお過ごしくださるように、今日もあなたに素敵な音楽と、素敵な話題をプレゼントしますね……」