真夏の逃避行
そのとき携帯電話が着信したことを報らせるメロディーが、賑やかに始まった。それは、早川の携帯電話ではなかった。助手席の女は慌ててバッグから、白いものを取りだして開いた。
「はい。ええ……ちょっととりこみで、今日の収録には行けなくなってしまいました。ごめんなさい……来週の本番には問題ないと思っています……今度云います。遠いところです……ごめんなさい。解りました……スタッフのみなさんに、よろしくお伝えください」
早川はそれを聞いて驚いた。
「芸能関係のお仕事されてます?忙しそうですね」
「まあ、そんなことはいいじゃないですか。でも、真犯人が逮捕されたら戻れますよね」
「それを祈るしかありませんね」
続いて早川の携帯電話にも着信した。
「はい。ご苦労様です……無事、終わりました……済みません。今日は帰庫できないので、車代は明日、二日分ということでお願いします……はい。そんなことはしませんから、信用してください」
早川は不法投棄をするなと、社長から釘をさされた。
本線に戻って走りだした。
「そうだ、ラジカセでニュースを聞いてみましょう」