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真夏の逃避行

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山に向かって



「真犯人、捕まりますよね」
 娘は心配顔で云う。
「捕まらなければ困ります……スカーフみたいなものはありますか?
 窓は閉められませんから、髪がめちゃくちゃになりますよ」
「壊れているんですか?」
「暑いから、窓を閉めることはできません」
 高速道路は渋滞していた。
「必要になったらハンカチを使います」
 原因不明の渋滞が間もなく解消した。時速九十キロ。風が勢いよく入ってきた。若い女は大きなハンカチをバッグから出した。
 遥か前方には、碧い山々が長く横たわっている。右に大きな競馬場、その先の左手にビール工場が見えてきた。若い女は昔のヒット曲をくちずさんだ。
 幾つもの峠や、長いトンネルを通過しながら、旧い軽貨物ワンボックスは、意外に快調な走りを続けた。燃料を補給するのを忘れていた。慌ててパーキングエリアに入ったが、そこにはスタンドがなかった。
作品名:真夏の逃避行 作家名:マナーモード