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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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茶房 夢幻楼

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 わたしはもう一度、さっきの場所に行きました。けれど、そこに喫茶店はなく、大きな古いケヤキの木が立っているだけの空地でした。ぼうぜんとその木を見上げていると、後ろから不意に声がしました。
「ああ。店、なくなっちゃったのか」
 振り向くと、若い男の人がいます。
「あの、ここは……?」
 わたしは、その人に尋ねました。
「夢幻楼っていう、喫茶店があったんだ。二年前、仕事でここを離れるまで、毎日のように来ていたんだけど。残念だな。マスターには預けておいたものが……」
 言いかけて、彼はわたしの手に握られた人形に気がつきました。
「あ、それ。ぼくの」
 今度はわたしの方が驚いて、まじまじとその人の顔を見つめました。太いまゆに面影があります。ちょっとどきどきして、人形を手渡しながら、聞いて見ました。
「タカシくん、でしょ?」
「え?」
 琥珀色の風に包まれて、二人のまわりだけ時間が止まるのを感じました。
「き、きみは……!」
 ゆっくりと、思い出のねじを巻き戻したタカシくんの顔に、昔のほほえみがうかびました。
作品名:茶房 夢幻楼 作家名:せき あゆみ