【第八回】お祭りマンボゥ
チリリ…と風鈴がまだ少し肌寒い北海道の夏の夜風に鳴った
「あれ…?」
風呂があいたことを告げに来た緊那羅が物抜けの殻の京助の部屋の戸を閉めた
「…どこいったんだっちゃ…」
顔を上げ右に行こうか左に行こうかと緊那羅がまるで横断歩道でも渡るかのように首を振ると右に行くことが決まったのか向きを変え右方向に足を進めた
古い造りの栄野家はやたら広く部屋数が多いがすの殆どはまったく使われていなく掃除すらまともにされていなかった
「…京助?」
奥へ奥へを足を進めた結果 緊那羅が辿り着いたのは【元・開かずの間】
「なにしてるんだっちゃ…明かりもつけないで」
月明かりだけが差し込んで薄暗い部屋の中窓際にいた人影に緊那羅が声をかけ室内灯の紐に手を伸ばした
「つけるな」
京助が短く言った
「あ…うん…;」
緊那羅が慌てて手を引っ込める
「…なしたよ」
小さく京助が聞く
「風呂…」
緊那羅が躊躇いながらとりあえず主語を言った
「…あぁ」
もぞっと動いて京助が返事をするとそれから長く沈黙の時間が流れた
「…もう少ししたらいくから…」
京助が小さく言った
「だから…」
ふわっと香ったのはたぶん今日の入浴剤で少し湿っているのはたぶん緊那羅が使った後のタオルだからで
「…京助だって」
そしてその上から感じたのは緊那羅の体温
「京助だっていっぱいいっぱいじゃない…」
すぐ側から聞こえた緊那羅の声に京助がピクッと動いた
「顔は…見えないっちゃ」
緊那羅がゆっくりと京助の頭を撫で始める
「…だからなんだよ…」
京助がタオルを掴んで顔を隠しながら小さく言う
「…泣きたい時は泣くんだって京助が言ってたじゃないっちゃ?」
緊那羅が優しく静かに言った
「私が守るから…京助の心も全部守るからだから…泣いていいっちゃ」
京助の頭に自分の頭をつけて緊那羅が言う
「…俺…ッ…」
鼻を啜る音が聞こえた
「俺って…何なんだよ…ッ!!! 俺が栄野京助じゃなかったら…俺が栄野京助だからまた…ッ!!」
緊那羅のシャツを掴んだ京助の手は震えていた
「俺…ッ…」
何かが切れたかのように小さな子供のように泣き出した京助の頭をゆっくりと緊那羅が撫でる
「今私にできること…」
泣きしゃっくりが起こり始めた京助を緊那羅が抱きしめた
「貴方を守ります…」
緊那羅(きんなら)が小さく言った
作品名:【第八回】お祭りマンボゥ 作家名:島原あゆむ