朝露
ファビウスの屋敷は、ローマの七つの丘の一つ、アヴェンティーノの丘の上にあった。
周囲には、豪華な屋敷が立ち並んでいたが、ファビウスの屋敷の豪華さは特筆すべきものであった。
アウレリウスは、その屋敷の一室をあてがわれ、専属の使用人も既に決められていた。
「ヘレナという・・・」
ファビウスは、ローマ到着の日の、夕食の席で一人の女性をアウレリウスに紹介した。
「アテネから連れてきたのだ・・もともとヘレナの亭主は学者の家系でな・・私がかなりの資金を出して、アテネの屋敷で亭主に研究をさせておったが、不幸なことに、亭主に先立たれて・・」
ヘレナの瞳が少し潤む。
自分より少し上・・20代後半であろうか・・
「彼女には、ギリシア語の教育からお前の一切の身の世話を頼んである。ローマには2年住んでいるから街のことも案内をさせるとよい。」
アウレリウスの胸にふっと ルチアの顔が浮かぶ。
「アウレリウスよ・・お前の気持ちはわかっておる。
ナポリに戻れば、しっかりとルチアや両親を愛するが良い。
しかしな・・ヘレナはあくまでも、この家でのお前の家庭教師であり、使用人だ。そのことをしっかりわきまえていれば、問題はない。今は何よりこのローマでの生活に慣れること、お前の見聞を広めることだ。」
そういい終えると、ファビウスは、食事の席を立ち、アウレリウスをぐっと抱きしめ、自分の部屋に帰っていった。