朝露
ルチアは、数多く抱えている使用人の女性の中においては、容貌においては、目立つようなところはない。
しかし、その賢さと様々な家事に対する能力は抜群であり、それ故、父や母も彼女に対し、信頼と好意を抱いていた。
また、彼女はこの家に来た7年前、すなわち12歳の時からアウレリウスの世話係をしていた。
ルチアの丁寧な仕事ぶりから、アウレリウスも彼女を心の底から信じるようになり、それがやがては恋心に変わり、ルチアに対して自分の心を打ち明けたばかりであった。
ルチアにとっては、アウレリウスの告白は、天にも昇る心持であった。
ルチアの父・母・兄弟はローマに対する反乱をたくらんだ罪に連座し、処刑された。
実際のところは、連座に加担した物的証拠は確かではなく、ほぼ冤罪といってもおかしくなかったが、ルチアが12歳の年齢で孤児になった事実は、変えようが無い。
ルチアが処刑を免れたのは、アウレリウスの家にたまたま、父母のお使いで来ており、アウレリウスの父母が不憫に思い、そのまま使用人ということで、身分を消してこの家にかくまっているためであった。
ルチアは、アウレリウスの自堕落な生活ぶりも気になってはいたが、何より彼の明るさや優しさが好きだった。
何とか、自分が彼を支えながらも、いつの日にか父や母の家を復権させることを夢見ていた。