朝露
アウレリウスが自堕落な生活を続けていることは、同じナポリに暮らす彼の親戚からも心配や不安の声が、彼の両親に寄せられ、彼の両親も心を痛めていた。
そんな折、ローマからアウレリウスの両親への面会として、かなり裕福な商人ファビウスの一団が訪ねてきた。
その商人の一団の長のファビウスとアウレリウスの家とは、遠縁にあたること、また100年以上の付き合いであり、常にお互いの利益や困難に際して、相談しながら、双方の経済的な安全を保ってきた。
また、ローマ元老院の有力な議員達に対する取次ぎも、協力して行い、社会的な安全も保ってきたのだった。
アウレリウスにとっては、数年来のファビウスとの面会である。
ローマ商人の一団と、豪勢な食卓を囲み、今日こそはと、口うるさい両親やナポリの親戚衆の非難を浴びないようにと、
気持ちを切り替えて、対話に加わっている。
ファビウスがアウレリウスの父に語りかける。
「マルコよ・・アウレリウスはこのままでは心配だ」
マルコは愛称であり、正式にはマルクスである。
「そうだなあ・・なんとかならぬものか・・」
マルクスも心配を隠しきれない。
「どうだろう・・まだマルコも引退するわけではないのだから、アウレリウスをこのファビウスに預けてはくれないか・・
ローマの地で、見聞を積めば、必ずや成長も見られよう・・」
「私も、若い頃にはローマの地にお世話になり、様々なことを知った。それが今の成功にも役立っている」
「どうだ・・・アウレリウス、ローマに行ってみるか・・・」
父もファビウスの申し出に賛同しているようである。
どうやら、ローマ行きはほぼ決定のようである。
関係の深いファビウスの申し出や父の意見を、断る自信や理由は、アウレリウスには無い。
「わかりました。ファビウス様、そして父上、私も首都ローマで見聞を広げたいと考えていました、よろしくお願いします。」
ファビウスや父は満足というか、すこしほっとした様子。
母だけが、心配そうな顔をしている。
宴会の話題は 既にアウレリウスのローマ行きから離れ、ローマ元老院の話題や、アジア・アフリカの政治情勢や貿易の情報に移っている。
アウレリウスはほとんど その内容がわからない。
なぜか しきりに 後ろを何回も振り返っているのだった。
アウレリウスの視線の先には、たくさんの使用人がいたが、彼はその中でもただ一人の女性を探しているのだった。