朝露
アウレリウスがローマでの生活をはじめてから2年の月日が流れている。
その間、アウレリウスは、莫大な財産を築き、またローマの政界や経済界、そして交易相手であるギリシアの様々な都市の商人とも、揺るぎない信頼関係をつくりあげている。
彼は人前では常に笑顔を絶やすことはない。
そして、どんな人にも好かれる男になっている。
しかし、最近、彼は仕事や仕事から派生する様々な付き合いを終えて、自分の部屋に戻ると以前にはなかった疲れを感じ、黙り込むようになっていた。
アウレリウスのそんな変化を、ヘレナは気が付いていた。
彼女自身のアウレリウスに対する想いもあるが、夜中に彼の部屋の前に立つようになったのは、最初はアウレリウスが心配になったからである。
ある日の朝、アウレリウスが久々に思いつめたような顔付きで、ファビウスに話しかけた。
「1ヶ月ほど、お暇をください・・・ナポリに戻ろうかと思います。」
「そうか・・・、お前は働き詰めであったと思う。マルコや母、そしてルチアを存分に愛してくるがよい・・」
ファビウスは、快く承諾の意を彼に伝えた。
3日ほどして、ナポリに旅たつことになった。
ヘレナは、懸命にその準備を手伝っている。
「ヘレナ・・本当に助かる」
アウレリウスから、声をかけられるたびにヘレナの心は締め付けられていく。
しかし、彼女はアウレリウスの幸せそうな顔を見ると、とても自分の想いを伝えることなどはできなかった。