朝露
アウレリウスは、ヘレナの自分に対する想いは、薄々感じてはいたが、彼の心の中はルチアで充ちており、どう対応してよいのか、わからないのが事実であった。
そのような悩みを抱えながらも、彼の事業は益々拡大し、そこからあがる利益も莫大なものになっていく。
彼の財産や深い学識からもたらされる見識に対しては、ローマの経済人や、元老院議員、ローマ軍の将軍からも頼りにされ、いまやローマにおける彼の地位はゆるぎないものになっていた。
ファビウスは最近 ため息をつくようになっている。
「いやはや、もう私の手が届かない程の財力と、信頼をローマ全体から手に入れている。本当にたいしたものだ。」
「しかし、そろそろ結婚をせねばならんだろうに、お前はどんな有力な議員や経済人からその娘を紹介されても、見向きもしない・・」
「確かにルチアに対する気持ちもわかるが、お前の家やこのファビウス家の将来を考えた場合、有力者と婚姻を通じた関係を強化するのも、大事なことなのだ。」
ファビウスは、折に触れてアウレリウスに語りかけるが、アウレリウすは、その優しい笑みを浮かべ、
「ファビウス様、今は結婚する気はありません、今の仕事が楽しいのです。」
「私には・・・ルチアしかいません。それは神の決めた事だと信じています。」
「・・・なかなか・・・これで頑固な男だなあ・・」
何回語りかけても 同じ答えである。
どうにもならんといった様子で、ファビウスは首を振っている。