朝露
ヘレナの教えるギリシア語を初めとした様々な学問は彼にとっては新鮮であった。
そして時折彼女がふっと見せる寂しそうな横顔が気になり、何とかして自分の力で少しでも彼女を幸せにしたいと、心底思うようにもなっていった。
アウレリウスは、常に笑顔でヘレナに接し、彼女とローマの街を歩くときは、彼女に必ず上質な衣服や高価な宝石を身につけさせるなど、出来うる限りの配慮を行っている。
ヘレナも、そんなアウレリウスの優しさに、次第に好意を寄せるようになっていった。
「アウレリウス様・・・本当にうれしゅうございます。
私はこれから、本当に幸せになれるような気がします。」
「うん、ヘレナ・・・君が喜んでくれると私もうれしく思う」
アウレリウスは、いつものように屈託のない笑顔でヘレナに答える。
ヘレナの顔が少し曇る。
「ルチア様のことは・・・実はファビウス様から聞いています。」
「そうか・・・」
「・・・でも、今は・・・私にお任せください・・・
私を信じて・・・貴方様にお仕えさせてください・・」
ヘレナは、アウレリウスの瞳をまっすぐに見つめている。
「わかっている・・・ヘレナ・・・きっと悪いようにはしない」
美しい夕焼けがローマの街を、そしてアウレリウスとヘレナを包んでいた。