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お下げ髪の少女 後半

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 小説家の「隠れ家」は、緒方の家からも自転車なら十分以内で来られそうな至近距離にあった。旧くて汚いアパートだった。モルタル二階建ての一階だった。和室の六畳一間と、冷蔵庫が余計に狭くしている台所、狭い靴脱ぎと水洗トイレ。テレビもない住まいである。
 小説家はガスストーブをつけた。
卓袱台が中央にあり、立派な書棚が二つと、茶箪笥が並んでいる。蔵書の中では百科事典と用語、用字辞典が目立った。そして、全集ものもあり、文学論などもある。そのほかは単行本、文庫も数多くあった。その中に男の作品もあるのかと思ったが、教えなかった。
「こんなものなんだが、短いから、一気に読んでみてくれや」
読まされた原稿は、普通サイズの原稿用紙に、力強く達筆な万年筆の文字で書かれていた。
 それは五十枚の短編で、若い庶民の生活を、精緻な文章で描いていた。実に味のある文章だった。空気やにおいまでが伝わって来るようだった。いちいち映像が浮かぶようなリアルさが、緒方の心を鷲掴みにした。短い文章の積み重ねが、登場人物の心情と、行動の癖までも、的確にとらえて表現している。迫力がある。
 そして、心を和ませる温かさに満ち溢れていた。緒方は思わず泣かされる場面もあった。