神々と悪魔の宴 ④<野球の神様>
参道を帰る道すがら、K氏のそんな訴えに学園長が小言を言おうとした時、道の脇の藪の中から、二人を呼び止める声がした。
「これこれ、そこの二名。毎日の参拝まことにご苦労であった。その殊勝な心がけに免じてお前達の願いを叶えてやろうぞ」
二人が声のする方を見ると、上等な衣をまとった老人が満面の笑みを浮かべて立っていた。
「いや何も言わずとも心得ておる。お前達は今期の野球で優勝したいのであろう? 何を隠そうワシは野球の神なのじゃ」
そう言って持っている杖をクルリと回すと、モクモクと煙が立ち昇った後に、大きな金属の丸い板と何やら古めかしい剣、そして大きな曲玉をやけに長い紐で結んだものが現われた。
「どうじゃ、お前達にこの三種の神器を授けよう。これを使って精進すれば必ずや望みは叶えられようぞ」
野球の神と名乗る老人が得意げに語るのとは裏腹に、学園長とK監督は困惑の表情を浮かべていた。
「あのぉ、神様?この道具はどうやって使えば良いのでしょう?」
学園長の問いに野球の神様は少々気分を害したのだろうか。
「どこを見ておるのだ。よく見やらんか!」
老人の叱責に改めて先ほどの三種の神器、すなわち、八咫鏡(ヤタノカガミ)・天叢雲剣(アマノムラクモノツルギ)・八尺瓊曲玉(ヤサカニノマガタマ)を見るといつの間にかそれぞれキャッチャーミット、バット、ボールに姿を変えていた。
「まあ、三種の神器といってもレプリカじゃから、そんなに長持ちはせん。大事に使ってもせいぜい一年じゃな。ふぉっふぉっふぉお」
学園長とK監督がその野球道具を手にとって眺めているうちに、野球の神様はひと通りの説明をすると、煙のように忽然と消えてしまったのだった。
作品名:神々と悪魔の宴 ④<野球の神様> 作家名:郷田三郎(G3)