CROSS 第14話 『挨拶まわり』
「……やれやれまた寝てるよ」
霖之助は検問所のボックスの中をのぞくとそう言った。ボックス
の中で、受付係と見られるチャイナドレスを着た女性が、大きな鼻
提灯を膨らませて寝ていた……。起こすために、霖之助は思いっき
りクラクションを鳴らした。
すると、ボックスの中にいたチャイナドレス女が目を覚まし、目
をこすりながら、ボックスの受付窓を開けた。
「荷物を届けに来ましたよ」
「はいはい」
チャイナドレス女は、机の上のボタンを操作して門を開けた。
オート三輪は開いた門を通って屋敷の敷地に入る。その際、チャ
イナドレス女が荷台に座る少佐の姿を見て、
「あれ?」
とつぶやいた……。オート三輪は庭の中へ走り去っていく。
「どこかで見た顔なんだよな」
チャイナドレス女はウーロン茶を飲みながらつぶやいていた。
そのとき、ボックスの中にある電話が鳴った。彼女は、ウーロン
茶を置いて、電話の受話器を手にした。
「……はい、門の紅美鈴です」
『中国、まだ来てないの?』
「ああ、咲夜さん。『香霖堂』なら、今来ましたよ」
『……そうじゃなくて、あの山口という奴よ』
「……いや、まだ来てないですね。どこかで見た顔の男がいっしょ
にいましたが」
ガチャン!!!
電話が向こうから一方的に切られた……。紅美鈴と呼ばれたこの
女性は、何か変なこと言ったかしらといった感じで受話器を元に戻
すと、またウーロン茶を飲みだした。
作品名:CROSS 第14話 『挨拶まわり』 作家名:やまさん