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CROSS 第14話 『挨拶まわり』

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「ヤ、ヤバ!!!」

少佐はそう叫ぶと、力を込めて足を動かした。すると、「スポッ」
という音ともに、少佐の両足は床から離れた。
 しかし、床から離れたのは両足だけで、靴は床にくっついたまま
だった……。床から離れた少佐の両足は、冷凍倉庫の冷たい床に落
ちた。
「イタタタタ!!!」
床に水気は無いらしく、靴のように靴下の裏が床にくっつくことは
ないようだが、靴下ごしに伝わる冷たさが、ドライアイスを触った
ときのような痛さとなって、両足を襲った……。
 少佐は痛みにこらえながら、火事場の馬鹿力を使って、両手で床
にくっついたままの靴の片方を引っこ抜いた。床から引っこ抜いた
片方の靴の裏についた氷や水滴を払いのけ、それを床に置き、片足
履きした。そして、片足立ちの状態で、もう片方の靴を引っこ抜こ
うとした。

 なんとか、もう片方の靴も引っこ抜けたが、その勢いでバランス
を崩して、少佐は片足立ちの状態で、冷凍倉庫のドアに向かって、
ケンケン走りしていった……。

「山口君、いるのかい?」
そのとき、両手にダンボール箱を持った霖之助が冷凍倉庫のドアを
開けた……。彼は、少佐が自分に向かってぶつかりそうになってい
ることがわかると、「うわ!!!」と言って、横に避けた。
 少佐は、避けた霖之助の横をケンケン走りで通り過ぎて、冷凍倉
庫の前の廊下の壁にぶつかって止まった。
「イテテ」
うまく壁にぶつかったものの壁は固く、少佐は少し痛そうにしてい
た。
「大丈夫かい?」
冷凍倉庫にダンボール箱を置いて、廊下に戻ってきた霖之助が少佐
に言った。少佐は片手を上げて、大丈夫であることを伝えた。
「それじゃあ、紅魔館に行こうか? もう夕方だし」
少佐と霖之助はオート三輪に戻った。



 オート三輪はチルノ食品の工場を出て、湖沿いの道を走った。太
陽は西の空に傾きかけて、オレンジ色の光を湖に反射させていた。
そのオレンジ色の光は、消えつつある霧を通過して、オート三輪や
少佐と霖之助を照らしていた。
「着いたよ」
霖之助が目の前に見える大きな屋敷を指さした。
 少佐は、荷台の上で立ち上がって、だんだん近づいてくる紅魔館
を見た。荷台には少佐の他に、『紅魔館行き』と書かれたダンボー
ル箱の荷物が乗っていた。
 紅魔館は大きな屋敷で、真ん中に時計台がそびえ立っていた。敷
地は広く、庭が屋敷の前に広がっていた。立派な門があり、その門
の前に駐車場の入口みたいな受付ボックスがあった。
「怪しまれるから、荷台に座っといたほうがいいよ」
霖之助がそう言うと、少佐は立つのをやめて荷台に座った。