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CROSS 第14話 『挨拶まわり』

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「でも、あなたは「神」じゃないでしょ」

 この声は、橙のものではなく、バスの通路の前のほうから聞こえ
てきた。少佐は身を乗り出して前を見た。橙も振り返って見たが、
誰の声なのかがわかっている様子だった。

 バスの中に、空間の裂け目ができていた。近くにいる乗客が驚い
ていた。そして、その裂け目から日傘を持った一人の女性が出てき
た。今の声の主だろう。
「うわ、出た!!!」
少なくとも、「空間にできた裂け目から日傘を持った熟女が出てく
る」のを見るのは初めての少佐は驚いていた……。
「おい、幻想共和国評議会の議長さんだぜ」
「生で見るのは初めてだよ」
バスの乗客が口々にそう言う。

「紫様!!!」
橙はそう叫ぶと、その紫という名前の女性に向かって走っていった。
紫という名前は少佐も知っていた。幻想共和国の議長である八雲紫
という妖怪だった。紫は少佐に、
「あのお嬢様に呼ばれて来たんでしょうけど、この幻想共和国で変
 なマネを起こしたりしないようにね。忠告はしたわよ」
静かだが恐怖心を抱かせる口調でそう言った。橙が紫の横に立って、
少佐を睨んでいた。
「…………」
少佐は黙ってうなずいた。ここでこのただ者ではない人と面倒事を
起こしたくないと考えていた。
「ならいいけど」
紫はそう言うと、裂け目の中に戻っていった。多くの乗客は、いっ
たい何だったんだろうという顔をしていた。残された橙は、少佐の
パスポートに判子を押すと、それを少佐に放り投げて返した。そし
て、他の乗客の入国審査を始めた。
 バスの乗客全員の入国審査が終わるころには、バスが検問所の受
付に到着していた。
「さっきの話を忘れないようにね」
橙は少佐にそう言うと、バスから降りていった。
「なんだ、あの人たちは?」

 バスは幻想共和国の国境を通過し、首都に入っていった。昔風の
ビルや建設中のタワーが見えてきた。歩道には、人間や妖怪といっ
たさまざまな種族が歩いていた。
 少佐を乗せたバスは、神社の近くにあるバスターミナルで止まっ
た。ドアが開くとともに、乗客が荷物を持って降りていった。どう
やら、観光客ばかりのようだ。
「ちょっと早くきすぎたかな」
腕時計とバスターミナルの時計を見ていった。時差はないようだが、
紅魔館での約束の時間の午後9時までかなりの時間があり、まだ昼
過ぎだった。太陽は空の高い位置についていた。たぶん、吸血鬼は
寝ている時間で、今行ったら迷惑で、紅魔館サイドの心証を害する
可能性がある。
「オレも観光していくかな」
観光客が写真を撮ったりしているのを少佐はそうつぶやいた。

 少佐はバスターミナルの道の駅に行き、758号世界の通貨『7
58円』から両替した大日本帝国連邦の通貨『帝国連邦円』を幻想
共和国の通貨『幻想円』に両替した。ついでに売店を見て回り、帰
りに買うお土産を見て回った。不思議な工芸品などに目を通した後、
その道の駅をあとにした。