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CROSS 第14話 『挨拶まわり』

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第1章 入境



   第14話 『挨拶まわり』

【時間軸】 異次元暦42729年 10月25日 正午過ぎ
【場所】 『日幻高速道路』 幻想共和国国境検問所



 メガネをかけた山口少佐(当時はまだ少佐ではないが、少佐と呼
ぶことにする)は、大日本帝国連邦の世界と幻想共和国の世界とを
結ぶ『日幻高速道路』上に停車中の高速バスの中で昼飯を食べてい
た。美味しいで高そうな弁当である。他の乗客や、運転手もそれぞ
れ昼飯を食べていた。
「さっきのサービスエリアで昼飯買っといてよかったよ。しかし、
 いつまで待たせる気だよ」
少佐は一人つぶやいた。少佐は、CROSSのリーダーおよび75
8号世界の管理者に選ばれたことによる挨拶とお礼のため、この幻
想共和国に向かっており、目的地は『紅魔館』だった。
 少佐を乗せたバスは国境検問所に並ぶ車列の中にいた。国境検問
所は和風の建物で室内は畳敷きになっていた。その畳の上に狐の式
神と猫の式神がちゃぶ台に向かいあって、ゆっくりと昼飯を食べて
いた……。どうやら昼休みのようで、受付には誰もついていなかっ
た……。そのため、長い渋滞が起きていた……。幻想共和国からこ
っちへ通過する側も渋滞していた。
「あの人たち、人間じゃないみたいだな。あれが異次元の世界の住
 民か」

 午後1時が過ぎて昼休みが終わると、狐の式神が受付につき、猫
の式神がこの高速バスに向かってゆっくりと歩いてきた。人数が多
いバスの乗客の入国審査を前もって済ませておくのだろう。狐の式
神は、器用に素早く、上下線を交互に手続きを済ませていき、車を
どんどん通過させていった。猫の式神がバスに乗りこんできて、前
の乗客から順番に入国審査を済ませていった。とくに緊張感は感じ
られなかった。ただ、少佐は式神を見るのは初めてなので、様子を
伺っていた。
 そして、少佐の番になった。少佐は発行されたばかりの真新しい
『異次元パスポート』を猫の式神に見せた。猫の式神は、異次元パ
スポートの立体写真と名前を見て、ハッとしていた。
「やっぱり来ましたか」
猫の式神は静かな口調でそう言った。
「ある人に呼ばれて来たんですけど、何か問題があるんですか?」
少佐はめんどくさそうにそう尋ねた。
「……いいえ。でも、気になることがあるんですよ」
「何がですか?」
「ついこの間、あなたが758号世界の『管理者』に決まったばか
 りなのに、このパスポートの発行日がその日の1週間ぐらい前に
 なっているんですよ。管理者を決めるのは出来レースだったんで
 すか?」
猫の式神は少佐に挑発する口調でそう言った。少佐は猫の妖怪を睨
んだ。
「……えーと、あなたの名前は? 化け猫さん?」
「私は式神です! 名前は橙といいます」
「橙さん、こういうことわざを知っていますか? 『触らぬ神に祟
 り無し』っていうものですが?」
「…………」
橙は少佐が言いたいことを理解できた様子で黙った。