CROSS 第14話 『挨拶まわり』
「ああ、やっぱり来てたのね」
勝手口のドアは開いており、そこにメイド服姿の白い髪をした女
性が立っていた。年齢は少佐より若い10代後半に見えた。さっき、
紅美鈴が喋っていた咲夜という女性だった。この女性の顔を少佐を
知っていたが、
「……ああ、あなたは知っていますよ。もしかして、あなたも吸血
鬼ですか? 妖怪ですか?」
少佐の頭は混乱し始めていた……。もうパニック寸前だった……。
「……どうしたんですか? この人? 本物の馬鹿みたいになっち
ゃってますけど」
咲夜は怪訝そうな顔で霖之助に近づき、彼にそっと尋ねた。
「……いや、まだ異次元に馴染んでいないようでね。まぁ、じきに
元通りになるよ」
「……元通りにならずに、このまま狂ったままじゃあ困るわね」
「じゃあ、早く連れてってあげなよ」
「言われなくてもそうします!」
咲夜は霖之助にそう言うと、呆然と突っ立っている少佐を見た。
「私に着いてきてください! いいですか?」
そうきっぱりとした口調で言い切った。
「……あ、わかりました」
今の咲夜のきっぱりとした強めの口調で、少佐はなんとか我に返る
ことができたようだ。
「山口君、大丈夫だよ。ちゃんとお嬢様に敬意を払っていれば、何
もされないよ。……たぶん」
「…………」
「それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」
霖之助はそう言うと、咲夜にダンボール箱を渡し、オート三輪に飛
び乗り、逃げるように走り去っていった……。
太陽はもう沈んでおり、屋敷の中は薄暗かった。その薄暗い廊下
を、少佐は咲夜について歩いていた。少佐はこれから、レミリア・
スカーレットに会い、CROSSのリーダーおよび第758号世界
の管理者に推薦してくれたお礼を言うのだった。レミリアたち紅魔
館のの支援が無ければ、CROSSのリーダーにも758号世界の
管理者にもなれなかっただろう。
ただ、少佐は、レミリアが吸血鬼であることをまだ不安に思って
いた。それが、前を歩く咲夜に伝わったようで、
「私もあなたと同じ人間ですけど、お嬢様に襲われたことなど一度
もありませんよ」
そう言うと、向こうから飛んできたメイド姿の妖精にダンボール箱
を渡した。
「……そうですか」
少佐はそう言うと、壁に掲げられたレミリアの大きな肖像画を見た。
肖像画の中のレミリアは、ワイングラスを優雅に手にしていた。あ
のワイングラスの中の赤い液体は、もしかして血なのだろうか……。
そう考えた少佐は身震いしていた……。
それからしばらく歩いた後で、咲夜は広そうな部屋の立派な部屋
の前で立ち止まった。
「この部屋にお嬢様がいらっしゃいます」
咲夜はそれだけ言うと、ドアをノックした……。
作品名:CROSS 第14話 『挨拶まわり』 作家名:やまさん