【第七回・禄】祭男爵奇談
「京助のイトコのラムちゃん」
聞き覚えのある声に緊那羅が身を前に倒して右方向を見ると阿部が手を振った
「阿部さん!」
知ってる顔を見たせいか緊那羅の顔が自然と笑顔になった
「今日も練習みに来てたんだ?」
本間がステージから降りて緊那羅の前に立って聞く
「あ…うん」
緊那羅が答える
「で…どうして宮津が知ってたの?」
香奈美が宮津に聞いた
「ちょっとね…」
宮津がふふっと笑う
「そういえばみかと宮津ちゃんはまだ残ってたんだ? 6時過ぎてるのに」
阿部が宮津ともう一人【みか】と呼ばれた女子生徒に言った
「あわせるのに残ってたの」
みかが言う
「あわせ…ああ! そっか!」
阿部が何か思い出したのか声を上げた
「もう日にち無いからね~…っじゃーん!! YOSAKOIソーラン笛~!」
宮津が赤く塗られた和笛を取り出した
「本殿前では生演奏だしね」
みかが言う
「歌は石塚先生が歌うんだよね」
本間が言うと宮津がうなずく
「…どうしたのラムちゃん?」
宮津の持つ和笛をじっと見ていた緊那羅に阿部が声をかけた
「えっ!?; あ…ううん;」
緊那羅が慌てて手を振った
「…吹いてみる?」
宮津がにっこり笑って和笛を緊那羅に差し出した
「え…?」
きょとんとした顔で緊那羅が差し出された和笛を宮津を交互に見る
「あの時の音もう一回聞きたいって思ってたの。あ、コレはフルートじゃないけどね」
そう言って宮津が緊那羅の手に和笛を握らせた
「いいん…だっちゃ?」
緊那羅が躊躇いながら自分の手の中に握らされた和笛を見た
「うん! 私もう一本持ってるし…ねぇ! そうだ!! 金名さんも一緒にどう?」
「へ?」
「宮津!?;」
宮津がパンっと手を叩いて言うと緊那羅は素っ頓狂は声をそしてみかが宮津の肩をゆすった
「お前何考えてんのさっ!; 部外者に…;」
「いいじゃない? 上手なんだよ~」
ガクガクと肩をゆするみかに対し宮津が笑顔のまま言う
「だってお囃子責任者私だもん。あとは先生の許可取ればいいんでしょ?」
宮津がみかの肩を両手で叩いて言う
「…宮津っておとなしそうな顔して結構とんでもないこととかやるよね…」
香奈美があぶら取り紙で鼻の頭をふき取りながら」ボソッと言った
「ラムちゃん笛吹けるの?」
阿部が緊那羅を見て聞く
「あ…うん」
緊那羅が返事をして宮津から渡された和笛に口をつけた
緊那羅が息を吹き込んだ一本の筒から生まれた音が体育館の中に響いた
作品名:【第七回・禄】祭男爵奇談 作家名:島原あゆむ