妖怪たちの八百万
二限目は体育だった。今日は長距離走。ただひたすらに校庭を走るだけだ。僕は走ることが好きだ。というか、もう唯一の趣味であるといってもよい。走るのが好きだというと誤解されるのだが、スポーツ全般に興味を持っているわけではない。むしろ大人数で協調して行う野球やサッカーといったスポーツは苦手だ。
日差しは強かったが、風が吹いていた。走り始めると一層風の存在を感じる。近頃よく眠れていない。原因はあの夢だ。気が滅入る。心が晴れない。
風が通り抜けていく。理屈ではない涼やかな心地よさが僕を慰める。走るのは好きだ、昔から。走っている間は何も考えずに済む。これから起こる嫌なこと、これまでにあった嫌なこと。すべてが後ろへ流れ去る。僕は今朝も見てしまったあの夢を振り切るように走る。何かに身体を絡めとられているような感覚が抜けない。眠ることが恐ろしいと感じるまでに僕は追い詰められているようだった。
苦しかった。僕は一人だ。
僕は走る。たった一人でも走り続ける。
追う側と逃げる側。
今の僕の姿は、何かから逃げているように見えるのかもしれない。