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妖怪たちの八百万

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階下へ降りるとすでにリビングのカーテンが開放されていた。僕が寝ている間に父は仕事へと出かけていく。僕はもやがかかった頭で朝食の準備に取り掛かった。

今朝もまたいつもの夢を見たようだ。内容は覚えていないが、目覚めの感じで分かる。最近見始めるようになった夢だが、頻度が多すぎる。ここのところ、ほぼ毎日見ているのではないだろうか。頭が重い。この夢を見た朝は体調がすこぶる悪い。疲れが抜けないどころか前日よりも増しているような気さえする。

冷蔵庫を覗き込む。父は滅多に家で食事を取ることがないので、実質僕の一人暮らしに近い。大した食材が揃っていないので、目玉焼きと簡単なサラダで朝食を済ませることにした。卵をフライパンに割り入れながら考えるのは、今朝の夢のこと。

この夢から覚めた後には、決まって家族のことが頭に浮かんだ。それも現在の姿ではない。僕がまだ幼かった頃、まだ家族がそろっていたころの光景だ。

父、母、そして姉。

あの頃の心地よさに現実を見失いそうになる。僕は意識して自らを戒めた。今はあの頃とは違うんだ。今を見ろ。今へ立ち向かえ。もう戻れない過去ならば、それは絵に描いた餅のように、むしろ僕にとってはネガティブな記憶にしかならない。今と比較して絶望に沈む。僕はできるだけ過去を思い返さないように気を張っていた。

それにもかかわらず、この夢は無神経に僕の努力を嘲笑う。まさに悪夢だ。繰り返すが内容は覚えていない。しかし、目覚めに伴うこの気分の落ち込みを引き起こしているのは間違いなく、この夢なのだ。今の僕には届かない家族との団欒が僕を苦しめている。

出来上がった朝食を食卓へ運ぶ。四人掛けの食卓が僕以外を迎えることはほとんどない。父は仕事で忙しい。僕は一人でも大丈夫だ。

僕が食事を進める音だけが家の中に響いていた。手早く食事を終え、食器を片付ける。始業時間までは余裕があるが、この家には僕を引き留めるものが何もない。登校の支度を済ませ玄関を出ると、家にはもう誰もいなくなった。
作品名:妖怪たちの八百万 作家名:虎渕