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チャーリー&ティミー
チャーリー&ティミー
novelistID. 28694
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狐鋼色の思い出 エリ編

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「あたし今から屋上行くんだけどあなたも来ない?」
真梨子が尋ねる。
屋上……この人は本当に……。
「ごめん。今授業あるし……」
「一回くらい問題ないわよ」
真梨子が手を差し出す。
……だからそれが困るんだって。
「ご、ごめん」
真梨子が残念そうな表情をする。
「……今日は空も綺麗だし風も気持いのに残念だわ」
井上真梨子が寂しげな表情をする。
……どうしてだろうなぜか罪悪感を感じる。
「それじゃあ授業がんばってね」
そう言うと井上真梨子は私に背を向けて教室を出て行こうとする。
「待って」
自分でも何でそんな言葉が出たのか分からない。
真梨子が振り返る。
「……私も行くよ。少しの間だけど……」
私の言葉を聞いた真梨子の顔に笑みが広がる。
「ありがとう」
真梨子が階段を上り始める。
あーあ授業評価下がっちゃうな。
ホント何やってんだろ私……。
まっ今更断るわけにもいかないし。
私も真梨子に続いて階段を上がり始める。
屋上の扉はもうすぐそこだ―。
扉を開けると涼しい風が顔に吹き付けてきた。
前髪が顔に張り付いて前が見えない。
「ほら空がきれいでしょ」
真梨子の声が聞こえた。
私は前髪と奮闘しながら空を見上げた。
ああ、確かに綺麗な空だ。
このまま見ていると心を持っていかれてしまう様な……。
「もっともそれが理由じゃいけないよね」
……ふと、真梨子が呟いた。
……空を見る以外にも何か理由があるのだろうか。
まぁ、薄々そんな事だろうなとは思っていたが。
「で何のよう?」
私はそっけなく聞いてみる。
まだこの井上真梨子という少女を信用し切ったわけじゃないけど、これ以上弱みを見せるのもイヤだったので強気な態度を取ってみた。
「改めてよろしく、井上真梨子よ。嫌いなものは幽霊と浴槽とそれから・・・・・・機械人形」
へぇ……彼女は幽霊が怖いのか。
てっきりそんなもの信じてないと思ってたけど……案外かわいいところもあるんだな。
……それにしても浴槽が嫌いってどういうことだろう。
それに機械人形って何……?
気になることはまだまだあったがあえて聞かないことにした。
なんというかその……直感というやつだ。
「自己紹介?どういうこと?」
そんなことを考えていたら私の口からこんな言葉が出た。
「秘密を共有した私たちがもっと知り合えばその秘密は誰にも漏れずに済むし、何か困ったとき助け合うことができる。考え方が間違っているかしら?」
良かった……どうやら彼女は私の秘密を漏らすつもりはないようだ。
私は心の底から安堵する。
……そう言えば動揺してて気付かなかったけど、私も彼女の秘密……すなわち『弱み』を握っているのよね。
ここまで動揺することなんてなかったかも。
「結局人間でもなく機械にもなりきれない・・・・・・怪物よ・・・・・・あたしは」
沈んだ声で真梨子が言った。
……言葉を挟むのは気が引けたので私は口をつぐむ。
真梨子は続けた。
「元々あたしのように体が半分もサイボーグはいないだろうけど……似たような人ならたくさんいる……筋電義手は今では簡単にできる技術のうちの一つ……」
ここで一旦、真梨子は話しをやめた。
私の反応を確かめているのだろうか。
ヒュウと風が吹いた。
私の前髪が風で揺れる。
「そんな怪物なんて・・・・・・それに筋電義手って・・・・・・分からない分からない。」
一気に色々なことを言わないでよ、コッチにだって情報を整理する時間が必要なんだ。
私は反射的に髪を掻き毟った。
「分からないのはあたし・・・・・・あなたの存在」
……その言葉に反応して私の体がビクリと震えたのが分かった。
恐る恐る顔を上げると真梨子がじぃっと私を見つめていた。
「まずなぜ学校にいるのか?今まで機械人形が襲ってこなかったからゼノスキャナーは起動しなかったけど起動すればあなたはキツネいったいどうやって今まで誤魔化してきたの?」
……彼女の言葉にはワケの分からない単語が多すぎる。
あまり深くは考えないでおこう……。
というより、問題は彼女の質問にどう答えるかだが……。
「それは・・・・・・気づいたら人間になってて」
見え見えな嘘だけど、この言葉が口をついて出てしまった。
後から後悔したがもう襲う。
……せめてもう少しまともな嘘はなかったものか。
私の言葉を受けて真梨子はふふっと笑った。
まるで勝ち誇った方に。
「ウソね・・・・・・」
真梨子が冷笑を浮かべながら私を見つめた。
「なんで分かるの?」
なんだか悔しくて私は反射的にそう言った。
「ターミネー○ー見たことある?ジョ○ョの第五部は?そのくらいお見通しというわけ」
ああ……なるほど、うっかり忘れていた。
そう……サイボーグである彼女には私の簡単な嘘などすぐに見破れるのだ。
この娘……やっぱり油断出来ない。
私は反射的に唾を呑んだ。
こうなったら本当のことを話すしかない。
「なら話すわ・・・・・・呪術よ信じる?」
私は恐る恐る切り出す。
しかし、それからあわてて付けくわえた。
「私が使うわけじゃないんだけどね アハ、アハハハハハ」
世間では狐は妖術が使えるとかなんとか思われているが(まぁ朱蓮様は別だけど……)あいにく、私はまったくそんな術の類は使えない。
そういう妙な誤解を招きそうな情報は早めに否定しておいた方が良いと思ったのだ。
「……」
そこまで言って私は口をつぐんだ。
真梨子が怪訝そうな表情を浮かべているのが分かる。
あぁ……この顔は絶対に信じてないな。
まぁ別に信じてくれないならそれはそれで別にかまわないけど……。
しかし胸の奥底で言いようのない寂しさというか切なさというかその類の感情が篝火の様に揺らめいているのもまた事実だった。
私は知らず知らずのうちに心の底で願っていたのかもしれない。
この娘に私の存在を信じてほしいと。
でも分かってる、科学の世界で生きる彼女がこんな突拍子もない話を信じてくれるわけがない。
私はゴクリと息を呑んで真梨子の答えを待った。
その答えは果たして……。
「信じるわ」
えっ……?
今彼女は何と言ったのだ……?
私はしばらく彼女の言った言葉の意味が分からなかった。
信じるわ。
でも彼女は確かにそう言った。
そう……それはつまり彼女が私の言う突拍子のない説明を信じてくれたということ。
「なんで信じてくれるの?」
思わず私は聞いてしまった。
「そうね・・・・・・信じるほうが希望に満ち溢れた人生を生きられるし、信じるほうが簡単だから、ね?」
……相変わらず彼女の言うことは私には分からなかったけれどなんだか納得出来た。
なるほど……確かにそうだ。
疑うよりも信じる方が楽しいに決まってる。
途端に彼女のことを警戒していたことが後ろめたくなって来た。
そうだ……あの雨の日だって、彼女はただ、私を喫茶店に誘おうとしてくれただけなのだ。
それなのに私は……。
「……あれ……どうしたの?」
真梨子が心配そうに私の顔を覗き込む。
……前までは冷たく見えていた彼女の顔が途端に優しく見えてきた。
ああ……彼女はこんなにも優しい目をしていたんだ。
「……なんでもない」
言いながら私は彼女から顔をそむけた。