狐鋼色の思い出 エリ編
第1話 雨の中の出会い
「……」
カーテンの隙間から差し込んだ太陽の光が私の顔を照らしていた。
ふと自分の手を見つめてみる。
……そこにあるのは人間の手。
良かった、やっぱり現実だ。
たまに私がこうして生きているのが本当に現実か疑問に思う時がある。
本当は今こうして暮らしている世界が実は檻の中に閉じ込められている私が見ている夢で本当の私は……。
その時私の耳元で目ざまし時計が軽快な音楽を響かせた。
その音で私は暗い思考の迷路から現実に引き戻される。
私はゆっくりと目ざまし時計に目を向けた。
それからふっと笑ってスイッチを押す。
すると今まで部屋を満たしていた軽快なメロディーがピタッと止まった。
「ありがとっ。おかげで明るい気分だわ」
そう目ざまし時計に言いながら私は立ち上がる。
さて、今日は友人の美津保と一緒に買い物に行く日だ。
早く準備しなきゃね。
私は笑みを浮かべながら思い切り伸びをした。
「ふぅ……良い天気……ではないわね」
暗く曇った空を眺めて私はため息をつく。
今日は友人の美津保に誘われて買い物に行く約束をしていたのにこの天候はあんまりではないだろうか。
明日から新学期ということもあって今日の買い物は特別楽しみにしていたのに……。
しょんぼりとした気持ちで私はケータイを取り出し、美津保に向けてメールを打った。
『エリが美津保に宛てたメール』
ねぇ美津保ぉ~空めっちゃ曇ってるよぉ(T_T)
今日の買い物楽しみにしてたのになぁ<`ヘ´>
これからどうする?
送信ボタンを押してメールを送信する。
はてさて何と帰ってくるか。
すぐに美津保からの返信が帰って来た。
『美津保からの返信』
うんめっちゃ曇ってるねぇ……(;一_一)
神様の嫌がらせかな?(笑)
うん、私も今日の買い物は楽しみにしてたぁ(T_T)/~~~
でもこんな天候じゃショッピングセンターまで行く気になれないよね<(`^´)>
近くの喫茶店で済ませちゃう?
うん……買い物を諦めるのは残念だけど確かにこの天候の中電車に乗ってショッピングセンターまで行くわけにはいかないよね。
じゃあ喫茶店で良いかぁ。
『再度エリからのメール』
うんそうしよう。
私もこの雨の中電車に乗って遠くまで行くのやだ<(`^´)>。
とりあえず学校の近くのエターナル・マート(注*コンビニです)で待ち合わせしようよヽ(^o^)丿
しばらくすると美津保からの返信が帰って来た。
『美津保からの返信』
OK☆ じゃあエタマ集合ね!
美津保からのメールを読み終えると私は念のために傘を持ってエタマに向かった。
きちんと用心しなくちゃダメでしょ?
雨降ったら嫌だし。
エタマに向かうとすでに美津保が退屈そうに空を見上げて待っていた。
「おーい美津保ぉ!」
私は美津保に向けて手を振る。
すると美津保も私に気付き、同じ様に手を振り返してきた。
「まったく今日は災難だねぇ」
そう言いながら美津保が私の方に駆けてくる。
そこで私は美津保が傘を持っていないことに気付いた。
まったく何をやってるんだこの娘は……。
「ちょっと美津保、あんた傘は?」
怪訝そうに問いかける私に美津保はきょとんとした表情で答えた。
「え?持ってきてないよ。雨降ってないし」
私はため息をついて答える。
「あなたねぇ……これでこの後雨が降らないと思いますか?」
そう言って私は空を指差す。
みるみる美津保の顔が青ざめていくのが分かった。
「あ……ぅん……降るね……これ」
今更悟っても遅いぞ美津保よ。
「さて……どうするか……」
言いながら美津保が縋るように私の傘を見つめる。
なんだよ……その目は……相合傘しろってのかい?
「エリぃ……頼むよ……雨が降ったら……ねっ♪」
そんな命乞いするみたいな言い方で言わないでよ……。
「分かったよ……入れてあげるよ」
「やった♪」
まったく調子の良い奴め。
ニタニタと笑う美津保を尻目に私は踵を返して歩き出した。
「ほら、行くよ」
しばらくして私と美津保は喫茶店グリーン・フォレスト(美津保の一押しの店。本当はロック・スターバックスに行きたかったんだけどね……)にたどり着いた。
もうすぐ雨が降るためかあまり人はいない。
私と美津保はテラスに空いている席を見つけると腰かけた。
「さてと……エリは何にする?」
美津保が早速メニューを開きながら言った。
「どうしようかな……美津保はどうするの?」
私の言葉に美津保は不敵な笑みを浮かべた。
「私はとっくに決まってる。メロン・抹茶オレ」
「メロン・抹茶オレ……?」
何それ……メロンと抹茶オレで……どんな味なんだよ!?
「そぉ。めっちゃおいしいの。エリも飲む!?」
「いや……遠慮しておきます」
そんな毒薬飲むわけないでしょ……。
私の言葉に美津保は不満気に顔をしかめた。
「何よ……あんたメロン・抹茶オレまずいと思ってるでしょ?」
いや……違うんですか?
「いやぁ……別にまずいとは言わないけど……珍しい組み合わせだな……なんて。あは、あはははっ」
「ごまかすの下手すぎぃ。いいよぉどうせメロン・抹茶オレはまずいからぁ」
あ……スネた。
「分かった、分かったよ。飲むから機嫌直して」
あぁ……今回もうまいこと言わされた。
案の定私の言葉を聞いた途端美津保の機嫌はケロリと直ってその顔に満面の笑みが浮かんだ。
「本当ぉ?よっしゃ!マスター、メロン・抹茶二つ!」
美津保がこの店のマスター(なんか緑色のサラサラヘアーでほっそりしてる)に注文を叫んだ。
あぁ……やっちゃった……そう思った時にはもう遅かった。
さっそくマスターの威勢の良い返事があり、まもなくここに地獄の毒薬が運ばれてくることになった……。
それからしばらく私はいずれ運ばれてくるドリンクの造形を想像して戦慄していた。
メロンを丸ごと抹茶オレに突っ込んだ奴……それともメロンのしぼり汁で作った抹茶?……もう私の頭はパンク寸前だった。
そして遂に運命の声が聞こえた。
「あいよー!メロン・抹茶二つおまちどー!」
そう言ってマスターがお盆に緑色のドリンク(意外と普通)を乗せてやってきた。
しかも一個はなぜかもう一つよりデカい……あれが美津保の物だと祈ろう。
そう……常連さんにサービスだ。
「今日は美津保ちゃんのお友達ってことで大盛りサービスだ!それに今回このドリンク飲むの初めてだろ?だから余計にサービスだ!」
私の目の前に緑色の毒薬が置かれる。
匂いだけでもキツイ……。
「さぁ召し上がれ!」
マスターがニコニコしながら私を見つめている。
美津保も同じような表情を浮かべて「お先にどうぞ」と手でドリンクを示した。
「あ……じゃああの……い、いただきます……」
私は恐る恐るドリンクに手を伸ばした。
そして躊躇が生まれる前に……何も考えず私はドリンクを喉に流し込んだ。
あぁ……最高にまずい!……と思っていたら意外といける……。
「どうだいお嬢ちゃん!」
マスターが感想を聞くのが待ち遠しい様子で言った。
私はすぐさまドリンクを飲みほし、コップをテーブルに叩きつけながら叫んだ。
「超おいしいです!」
作品名:狐鋼色の思い出 エリ編 作家名:チャーリー&ティミー