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チャーリー&ティミー
チャーリー&ティミー
novelistID. 28694
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狐鋼色の思い出 エリ編

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メロン・抹茶オレ(三杯目)を飲みながら私と美津保は春休みの出来事についてのトークに華を咲かせていた。
ちなみに今のお題は美津保の親戚のプンプク叔父さんについて。
「いやぁそしたらプンプク叔父さんがさ……」
その時不意に美津保のケータイが鳴った。
美津保は話が中断されたため一瞬顔をしかめたがすぐに通話ボタンを押して電話に出た。
「はいもしもし。えぇ私よママ……えぇ叔父さんが!?うん分かった。それで叔父さんは大丈夫なの……!?え?え、あ、うん落ち着かなきゃダメだよね。あ、うん分かった今すぐ帰る」
険しい表情で美津保は電話を切った。
会話の内容から推測するに美津保の叔父さん(プンプク叔父さん?)に何かがあった様だ。
美津保が険しい表情で席を立つ。
「ごめんエリ……叔父さんが急に倒れたからすぐに家に帰らないといけないの」
「ううん、良いよ。それよりも早く叔父さんの所に行ってあげて」
私の言葉を聞いた美津保は嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
そう言うと美津保は急いでサイフから小銭を取り出して私の前に置いた。
「会計はこれで払っといて」
良く見てみるとその金額には私の分も含まれている。
「え……でも悪いよこんなの……私の分は自分で払うから」
しかし私の言葉を聞く前に美津保は私に背を向けて店を飛び出して行った。
「……」
私はテーブルに置かれた小銭を見つめた。
たしかに得をしたのかもしれないけどなんだか複雑な気分……。





喫茶店からの帰り道。
雨がポツポツと地面を打つ。
傘を持ってきてよかった。
交差点を曲がると大きな水たまりが出来ていた。
助走を付けてそれを飛び越す。
「ふぅ……うん?」
私の視線はある少女にくぎ付けになる。
少女は地面に膝をついて座り込んでいた。
この雨のなか傘もささずに。
一体彼女は何をしているのだろう。
ゆっくりと彼女に近づいてみる。
「嘘……」
彼女の姿を見て私は絶句する。
彼女の体の所々に穴が空いていてそこから金属の部位が見え隠れする。
彼女は一体……?
得体のしれない少女に私は恐怖を感じた。
気付かれない様に後ずさる。
でも―うかつだった、水たまりに気付かないなんて―水たまりを踏んでしまい大きな音が鳴った。
少女はこちらに冷たい表情を向ける。
私はその場に凍りつく。
少女はただ何も言わず私を見つめていた。
一瞬だけ驚いた様な表情を浮かべたがそれだけ。
沈黙に耐え切れなくなり私は切り出した。
「あなたは一体何者なの……?」
「何が?」
声だけ聞くと普通の女の子みたいだ。
でも可愛らしい声とは裏腹に顔は笑っていない。
「だって……あなた……その……ニンゲンじゃ……ないよね?」
私は恐る恐る尋ねる。
それを聞いた少女は不思議そうに小首を傾げた。
「それはあなたもでしょ?」
私の胸を少女の言葉が貫く。
「あなたからは人間の鼓動を感じない」
そう言うと少女はゆっくりと立ち上がりこちらに向かってくる。
足が動かせればいいのだがあいにく恐怖で固まってしまって動けない。
「あなた何言ってるの……?」
「図星ね」
「……」
言葉に詰まってしまう。
少女が私の右手を掴む。
ひんやりとした、まるで生きてなどいない様な冷たい手。
「あなたは何者?」
「え……」
少女が触れている部分から呪術が解けて行く。
だんだん毛が生えてきて……。
「離してっ!」
私は思い切り少女の手を振り払う。
「あなた……キツネ?」
少女が尋ねる。
「違うわ」
「キツネでしょ?」
「違うったら!」
私はつい叫んでしまう。
「あなたは本当に不思議な存在ね」
不思議な存在……。
姿を変えて人間の世界で暮らすキツネ。
今ならそれがどれだけ不思議なことか分かる。
それがバレたら……?
動物園へ?
「これからお茶でもどお?」
少女が手を差し出す。
「嫌……嫌……嫌っ!」
私は彼女の手を弾いて駆けだした。
「待って!」
背後であの少女の声が聞こえる。
私はそれを無視して走り続ける。
あの少女が追い駆けてくる気がして速度を落とすことが出来ない。
少しでも速度を落とせば捕まってしまう気がしたから……。





「ハァハァ……」
流石に疲れて私は走るのをやめた。
そろそろ大丈夫だよね。
念のため背後を振り返る。
よかった……あの少女は追い駆けて来ない。
「よかったぁ……」
ほっと胸を撫でおろす。
そこで私はようやく右手の呪術が解けているのに気付きあわててセーターで隠した。
誰にも見られてないよね……?
念のため周囲を見回す。
みんな自分の事に夢中で私のことなんか見ていない様だった。
よかった。
ふと小さな男の子が傘で水たまりを弾いた。
あわててそこから退く。
あやうく水が掛るところだった。
「まったく気をつけてよ。傘はそんな使い方……」
傘……?そうだ傘だ。
あの少女と出会った時に落として来てしまったんだ。
あれ結構お気に入りだったのに。
まぁ命があるだけ儲けものって奴?
こんな小さなことでクヨクヨしていても仕方ない。
傘ならまた買えば良いし。
私は自宅へのルートを歩き始めた。
それにしてもこの時期は鳥たちがよくしゃべるなあ。
「それでさあジョスティーがカラスに食われたって本当?」
「うん本当本当。まずは体を……」
私はあわてて耳を塞ぐ。
聞かなかったことにしよう。
今日の夢に出てきそうだ。





「ただいまー」
玄関を開けて家の中に転がり込む。
……今日はくたくただ。
色々変なことがあったし。
アナタカラハ ニンゲンノ コドウ ヲ カンジナイノ。
あの少女の言葉が蘇る。
「……」
私は黙って自分の右手を見つめた。
呪術が解けて毛が生えている。
どうして呪術が解けたのだろう。
彼女に触られたから……?それしかないではないか。
呪術ってこんなにも簡単に解けるものだったの?
「お帰り―!」
声の方向を向くとスティーブがこちらに向かって駆けて来ていた。
スティーブはパピヨンの男の子で私の友人……まぁ俗にはペットって言うのかな。
スティーブが私に飛びついてペロペロと顔を舐める。
「あははっ。やめてよくすぐったい」
私はジャレついてくるスティーブを引き離す。
「ねえねえ、遊ぼうよ」
スティーブが骨の形をしたおもちゃを持って私を見上げる。
……やっぱりこの視線のかわいさは殺人レベルだ。
でも今はちょっとパス。
「ごめん。今ちょっと疲れてるの」
私はバッグを抱え上げ自分の部屋に向かう。
「ちぇー。最近ちっとも遊んでくれないの」
スティーブが愚痴を言いながら私の後をついてくる。
「遊んでるじゃない、ちゃんと」
「ちょっとだけね。最近全然公園に連れて行ってくれないじゃん」
「私も色々と大変なのよ」
私はドッサリとベッドの上に倒れこむ。
スティーブがベッドの上にヒョイと飛び乗る。
そして不思議そうな表情で私の顔を覗き込む。
「ねえ、最近ずっと人間の姿じゃん」
「その方が楽なのよ」
私は目を閉じる。
今日は疲れた、このまま寝てしまおうか。
「ねえ、また一緒に森を散歩しようよ」
「キツネの姿で?」
「うん。その方が楽しい」
まあ久しぶりにそういうのも悪くないかもね。
私の口元が自然と緩む。
「考えといてあげる」