激しくも生き、されど終焉は … 穏やかに
そこには長野主膳義言(よしとき)の墓。桜田門外の変の血染めの土を埋めた井伊直弼の供養塔。そして、圓光寺の村山たか女の墓から移されて来た土の上に建つ碑。それらは彦根城を背に三人仲良く並んでいる。
「へえ−、こんなところで三人は再会していたのか。無理矢理にひっつけられて、ちょっとこの三人異様だなあ」
高見沢は三つの碑の前に立ち、ぞっとする。
「こんな呪われたような場面では、ム−ドを変えるためにも、たか女さんに一つ質問させてもらおうかな」
高見沢はますます不埒な思考にはまり込んで行く。
「たか女さん、貴女を愛した男二人、彼らに今挟まれて幸せですか? その答えは‘YES’しかないよね。そうしたら今みんな生きていたとしたら、どっちの男を選びますか? これは難しい質問かな……、それとも次の男を探しますか?」
高見沢はたか女の碑の前でアホなことを考えている。その挙げ句に、「もっと村山たか女さんのことを知りたいよなあ」とその思いを募らせる。
しかし、埒は開かず、その日のオッカケを諦め、天寧寺を後にしたのだった。
そんな日から一ヶ月が経った。そして先程、京都一乗寺下り松を少し上がったところにある圓光寺で、村山たか女の墓参りをした。それから金福寺を訪ね、今縁側に座り込んでいる。
彦根城、天寧寺、圓光寺、金福寺と‘たか女’を追い掛け、辿ってきた道程。その間いろいろ調査もしてきた。高見沢は鞄の中からおもむろに一冊のノ−トを取り出した。そこには『村山たか女の年表』と表題が記されている。
高見沢が毎日の仕事を終え、少しの余暇の中で、歴史書から‘たか女’情報を収集してきた。それを自分勝手な解釈で脚色し、年表風に書きまとめている。
高見沢は今一度、そのノ−トを読み直し始める。そして、たか女の波瀾万丈の生涯に思いを馳せ、さらに妄想の世界へと埋没して行くのだった。
作品名:激しくも生き、されど終焉は … 穏やかに 作家名:鮎風 遊